あの木の名前なんだっけ
「別れたい」
そう切り出されたのは春先の喫茶店でのことだった。
「うん、別れよう」
二つ返事で返す。
夕闇の匂いが濃くなってくる、昼下がり。
座っている席からは外の通りがよく見えた。
風が強く、まだ育ち切っていない街路樹がグラグラと音を立てるように揺れている。
ずっ…
お互い話すことも、話す必要もなく珈琲を啜る音だけが嫌に耳に響く。
雲の流れが随分早いなあ、とぽけっと空を見ていた。
ぐすっ、と泣く音がして、慌てて彼女の方を見る。
俯きながら涙をこぼす様子を必死に見せまいとしている。
「…理由すらも、聞かないのね」
そう言ってきっと睨めつけながら泣く様子がたまらなく美しい。
「聞いて欲しいの?」
「違う、そうじゃないっ」
「だって、もう決めたんだろう?」
「…うん…」
「なら、それでいいじゃないか。」
そう言ってビルを手に取り外に出ることにする。
「幸せになってね。」
通りを歩いていく。
さっきより薄暗くなっていて、
さっきよりちょっとだけ冷たい風が目に染みた。
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