無色透明
『別れた』
ぽつんとLINEにメッセージが入る。
『そう』
スカッとした風の強い、それでも良い天気。
数か月前、出会った彼女は傷ついた猫みたいな暗い顔をしていた。
伸ばされた手は誰の物でも掴んでしまう様な危うさがあって。
気付くと、僕は目を離すことが出来なくなっていた。
話をよくするようになって。
付き合っている男と上手くいっていないと零したのは、間もなくのことだった。
『私ね、今まで友達って、ちゃんといたことないんだ。』
『同性の娘達はね、私のこと、あんまり好きじゃないみたい。』
『でも男の子は優しくしてくれるんだ。君だってそうじゃない?』
違う、と言えなかった。
もし、彼女が彼女じゃなく彼だったら。
僕は今の様に彼女に興味を持っていただろうか。分からない。
『分からない。』
『結局男女の友情なんてものは幻想なの。みんな下半身が先。』
一瞬だけ悲しそうな表情をした。
それでも、やっぱり目が離せなかった。
『彼ね。多分私に興味があるんじゃないの。』
『私は彼のことをもっと知りたい。彼に触れたい。でも彼は私を見ていない。』
もっぱら僕らの会話は彼女の彼についての話が多くなった。
彼女の世界の中心はやはり彼みたいだ。
自分の世界の中心が自分じゃないのはよく分かる。
でも他人は危うい。
金曜日の深夜というには遅すぎる時間、やはり彼女からメッセージが入っていた。
多分僕に言う意味は無いんだろう。
彼女は僕を見てはいない。そんなこと当の昔に分かり切っている。
「また、泣いているの?」
『泣いてるよ。泣いている。』
彼女の言葉は僕を素通りする。虚空に向けられた声。
「そっか。」
名も知らぬ彼女の彼氏が、もし、目の前に現れたら僕はきっと殴ってしまう。
これは恋や愛なんてものじゃない。
ただの救済願望かもしれない。
ただのモテない男の僻みかもしれない。
でも、彼女の隣で抱き締めることのできるソイツが。
妬ましく、羨ましくて仕方なかった。
『別れた』
その言葉はたぶん僕に向けられたものじゃないから。
彼女なりのケジメ、なんだろう。
日記の終わりに一言添えるような。過去の自分へのさようなら。
深夜のお悩み相談室も、きっとこれでお終い。
無色透明な日記の覗き手は、もう必要ない。
頑張れ。泣くな。泣いてもいい。お幸せに。
どの言葉も似つかわしくない気がして、
結局いつも通り無色な応えになってしまった。
そのままLINEを消すことにした。
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