手負い

急に何も手につかなくなり、ソファに倒れこむ。

目の前が真っ暗になり、真っ黒な感情に背中から心の臓が掴まれる。

ふっふっ、呼吸を整える。

大丈夫、心から流れる血を止める方法は、身体を怪我したときと一緒。

ふっふっ。

胸に手を当てる。まだ、大丈夫。

少しきつめに抑え、じっと待つ。

黒いもやもやが少しだけ薄れていく。

私は、大丈夫。まだ立てる。まだやれる。いつまでかは分からないけど。

今はまだ両の腕が、両の足を動かすことが出来る。

ほうっ、と息を吐き目を開ける。

心の穴を無理やり瘡蓋で塞ぐ。

そうして見なかったことにする。

こうすれば、まだ大丈夫。

だましだましでも、それなりになんとかなる、なんとかする。

これが生きるという事なんだろう。

いつか来る終わりが、ほんの少しだけ楽しみである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る