デザートには緑茶ですか


「男の人ってでっかい肉の塊を美味しそうに食べたりするじゃない?」

恵方巻を目の前に置いた時に、例のごとく、ふと彼女が思いついたように呟いた。

「肉がよかったという遠回しのアピールかね。」

当然そんなことは無いと分かってはいる。

しかし、折角予約までして間に合わせているのにデリカシーがなさすぎると思うの。

「いや、別に牛丼でもいいの。味がずーっとおんなじやつ。あ、恵方巻もそうね。」

そういって嬉しそうに箸を皿へと伸ばす。

「そうだね。おなかが減ってると味より満腹感!量ってなりがちかもしれない。」

「量が食べたいならそうかもしれないの。でも飽きないの?」

半分齧った恵方巻を皿に戻して聞いてくる。

「飽きるでしょう。飽きない程度の量しか頼まないということもあるけど。」

「途中で飽きるとか考えないの?」

「恵方巻、飽きたの?」

「うん、味が同じなんだもん。」

「漬物を出そうか。」

「いいね。」

冷蔵庫から漬物を出し、取り箸と一緒に渡してやる。

うるせえ、デリカシーのない子にはお仕置きだ自分で盛れ。

後で緑茶でも入れてやろう。


「味を変えればいいんだろう?」

「漬物美味しい。」

「漬物と一緒に残りを食べてごらん。」

「うん。」

ポットにお湯を注いで茶葉の用意をしておく。

漬物を食べた後のえぐみが、緑茶で洗い流される感じはそれはそれで癖になる。

「はい、お茶。」

「ありがと。」

ほっと一息をつく。

「人によると思うけど、ベースはずっと好きな味で。あきちゃったら他のアクセントを加えればいいんじゃない。」

「そうね、恵方巻美味しかった。」

「そりゃ、良かった。」


静かな時間が流れる。お互い携帯を弄るでもなく、テレビをつけるでもなく。

お互いお茶に目を落としたり、実はお互いを見ていて、たまに目が合うとなんだか妙に温かい気持ちになったり。

この時間がずっと続くなら多分飽きることは無いんじゃないかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る