冬の海

穏やかな潮の満ち引きが、砂浜に淡く濃淡を付ける。

静かな冬の海には、薄い磯の香りがする。

誰も歩いた跡のない、真っ新な砂浜。

思い切って靴を脱いでみる。

ゆっくり、ぎゅっと踏みしめる。

土踏まずに、冷たい砂。

波打ち際を、ぽつぽつ歩き出す。

時折、砂の中に、貝殻を見つけ出す。

指でつまんで拾い上げる。

ざらざらとした感触。

ポケットにしまい、また歩き出す。

そうしていると、なんだか、ポケットが重たくなってくる。

真っ白な小さな貝殻。

一枚だけを選んで、大事にしまった。

残りの、色とりどりの貝殻を、波の間に零してしまう。

ふと目を上げる。

太陽は傾きかけていた。

空と海の境界が、ぼんやりと滲んでいて、

「帰ろうかな」

ふと声に出していた。

そうして砂になる。

サラサラサラ。

静かな波が、足跡をさらっていた。




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