焼きそばパンとメロンパン
昼休み、購買の殺気立った雰囲気に気圧された僕は自販機でパックの缶コーヒーを買い、屋上へと足を運ぶ。
秋から冬に代わるこの時期、少し肌寒さもあってか、楽しそうにボール遊びをしている二人組を除けば意外と人気がない。
天気のよさもあって、今日は随分遠くまで見える。
雲一つない青空と、遠くの山並みを背景に一両編成の列車が走っている。
「やあやあ、珍しいところで会うものだね。」
突然後ろから声を掛けられ、心臓が跳ね上がる。
振り返ると、いつかの先輩がそこにいた。
「せ、せんぱい」
「そんなに驚かすつもりはなかったのだけれど…」
「いえ、すいません。珍しいことだったので。先輩は…お昼ですか?」
「そうとも。天気が良かったからねえ。」
気を取り直した様子で、フェンスの台に腰掛ける。
「少し買いすぎてしまったんだ。良かったら一緒に食べようよ。お金は要らないよ。」
焼きそばパンを一つ、手渡してくる。
「有難うございます、遠慮せずに頂きますね。」
「…君は胃袋には素直なんだな。」
「どういう意味ですか?!」
ニヤニヤしながら何も言わない先輩がなんだかむかついて、焼きそばパンを黙って平らげることにした。きつめのソースの味が妙に美味だった。
「やっぱり男の子だねえ。」
先輩はメロンパンを小さく頬張りながら、小さく笑っている。
「…ご馳走様でした。」
「お粗末様でした。普段も屋上でご飯、食べているの?」
「この時期の屋上は気持ちがいいので…。」
「ふーん、確かにこれは気持ちがいいね。」
そう言うと、先輩は地面に大の字になる。
「後輩君、腕枕。」
「は?!」
「…君は私のパンを食べた。あんだーすたん?」
「先輩、酔ってますか?」
「もう、煩いなあ君は。だったらせめて、隣、おいで。」
まるで小さい子にするように横をポンポンと叩く。
なんとなく、このまま揶揄われているのも癪だった。
「では、失礼します。」
少しだけ距離を取って横になる。先輩は小さく噴き出した。
此方をじっと見ている気配がして横を向く。
先輩と目が合った。
そのまま二人とも黙り込んでしまう。
長い髪が額にかかって、濡れた瞳が綺麗だった。
不思議そうな、色のない表情が印象的だった。
ふいに、先輩は目を逸らす。ほうっと息を吐き、緊張が抜けるのが分かった。
僕も仰向けになり、空を眺めることにした。
「…綺麗な蒼だね。吸い込まれそうだ。」
「…ええ。好きな色です。濃いか薄いかもわからず、不思議な色合いです。」
「…君は存外、情熱的な奴だな。」
「そうでしょうか。」
それっきり先輩は無言になった。
穏やかな日の光が心地よく、気付いたときには始業の鐘が鳴っていた。
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