珈琲、煙草、月光

寝ようとしている時に限って、目が冴えてしまう。

一人の眠れない夜、憎たらしいほど綺麗な月が静かに夜空を照らしていた。


起き上がり、珈琲を淹れることにする。

水の入ったケトルをキッチンのガス台に掛け、換気扇を回す。

その隣で煙草を吹かす。

夜は、嫌い。


ぴーっ、という音を合図に火を消し、

粉の乗ったフィルターにお湯を注いでいく。

煙草の残り香に珈琲の香りが合わさった空気は、

しかしすぐに換気扇に吸われてしまう。

カップにに黒々とした液体をなみなみと注ぐ。


なんとなく手持無沙汰になって、もう一本煙草に火をつける。

肺の中が苦しくて、口を付けた珈琲の熱さで舌先を火傷した。

それでもメンソールの香りと、口に広がるほろ苦さが嬉しかった。


もう一度寝ようと、ガスを閉め、電気を消した。

すると、柔らかな月光が差し込んだ。

少し寒かったがカーテンは開けたままにすることにした。



忙しさに身を紛らわしていれば

人間って難しいなあ、

普通に生きるってこんなにも難しいんだ、

もし、このまま眠って、明日の朝目が覚めなかった。それはそれで幸せなのかもしれない、

なんて一人馬鹿なことを考えてみる。


「意気地なし。」

昔、それこそ高校生だったころ、後ろの席の女の子に詰られた記憶がある。

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