自販機

「ねえ」

 たまに来た学校、欠席裁判で知らないうちに押し付けられていた、図書館での蔵書整理の仕事。参加するはずだった人の大部分がサボり、もとい理由をこじつけて欠席だったため、1学年上の先輩と二人で作業をすることになった。

 放課後の図書室、インクと黴の匂いのする部屋に茜色が射し込み、空気中の埃がキラキラと太陽の光を受ける。

「どうかしましたか?」

 たまに埃臭さに顔をしかめながらも、テキパキと作業をこなしていく。数時間ぶっ通しの作業で、お互い疲労の色が濃くなり始めていた頃合いだった。

「ちょっと休憩にしましょう。外に出ない?」

「いいですね、気分転換に。」


 自販機で飲み物を買う。紙パックの、どこのメーカーだか分からない緑茶と烏龍茶。奢りだと言って手渡された冷たい茶色のパックを無造作に開け、乾いた喉に流し込む。辺りは暗くなり始めていて、ひんやりとした空気が気持ちよかった。


 一息ついた後、今更だけど、と前置きをして、不思議そうな表情で聞いてきた。

「君はどうしてサボらなかったの?」

「それを言うなら先輩こそ。」

 笑って返事をすると先輩もつられて笑い出す。

「私は本が好きなの。蔵書整理は、私は結構好きな作業よ。去年なんか一人で結局全部やったわ。」

「一人で、ですか。凄いですね。」

「何日かに分けて、だけどね。今年も一人でやるつもりでいたの…。ちゃんと来てくれて、助かっちゃった。」

 悪戯した子供の様にちょっと舌を出す仕草が、目を惹いた。初めてちゃんとこの人の顔を見たような気がする。綺麗な人だな、と、そう思った。

「天気が良かったから、でしょうか。」

「へ?」

「僕のサボらなかった理由です。」

 一瞬、間を開けてから、程なくして彼女は腹を抱えて笑い出した。

「…なんとなく察していたけれど、君、相当変。」

 そう言って目に貯めた涙を、人差し指で拭う。

「変って…。天気がいい日の放課後の時間って、どことなく好きなんですよ。」

「そうだね、わかるよ。ありふれた日常の風景が、夕闇という化粧で違った顔を魅せるの。私も好きだよ、今の時間。」

「詩的ですね。」

「違った?」

 肩をすくめてみせる。

一口烏龍茶を口に含んだ。

ほろ苦さと、冷たさが心地よかった。

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