塔の魔女
「塔の上には魔女が住んでいる」
誰が言い出したかも分からない、子供の冗談のような噂話。
小さな村の外れの森に、その塔はある朝突然、そこに在った。
地上からだと塔の最上階は霞んでいてよく見えない。一夜で作るのは人間には無理な話だった。
そんなこともあってか、或る者は精霊の仕業と言い、或る者は隣の大陸の魔王が戦争の為に置いたのだと言う。しかし、ある時からそれは魔女が建てた、と噂されるようになった。
「魔女の塔」
そんな名前で呼ばれるようになるのは時間の問題だった。
地元の人間は気味悪がって近づかない。
しかし、物好きは居るもので、噂を聞きつけわざわざこの村に訪れる好事家をよく見掛けるようになった。
「これ、幾らかしら?」
そんな好事家の一人だろうか、異国の、特徴的な黒ずくめの服装に身を包んだ女性が棚の肥やしと化していた緑色の装丁が施されている重装な古書を手にしていた。
「100ルビー。お客さん旅の人?これ荷物になるよ。」
「大丈夫。」
そう言って金貨を1枚置き、そのまま店から出ようとする。
「多いよ。」
「取っておいて。」
この辺では珍しい綺麗な黒髪が印象的だった。
「ちょっと!」
慌てて追いかける。店の外に彼女の後姿を探す。しかし店の前の乾いた太陽が照り付ける砂の道の上では、目立つはずである真っ黒なその後ろ姿を見つけることは出来なかった。
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