第41話 キースの決意




「ぐああっ!何故だ!何故こんな小魚がすくえんのだっ!?」

「うう……この黒い奴がすくいたいのに……っ」

「このっ、逃げるな貴様等っ!」

「……ああっ!後少しだったのに!」


 男達が小さな金魚をすくおうと躍起になっている。


「な……なんだ、これは……」


 キースはその光景を見て茫然とした。


「あっ!キース様!!」

「アカリア!!」


 キースに気付いたアカリアがぱっと顔を輝かせて胸に飛び込んできた。

その体を受け止めて、キースはアカリアをきつく抱きしめた。


「無事か、アカリア!?」

「はい!良かった、キースさ……キースお兄様もご無事で……」


 ほっと強ばっていた身体の力を抜いたアカリアに、キースはどれだけ恐ろしい思いをしたのだろうと唇を噛んだ。


「すまない……守ってやれなくて」

「いいえ!こうして助けにきてくれたじゃありませんか!」

「ああ……それが、不思議な気配に導かれたような気がして……」


 キースは辺りを見回した。あの不思議な気配が消えていた。


「あれはいったい……いや、それよりもアカリア、あいつらは……」

「たぶん、どこかの商会の連中です。今は私の『スキル』で縁日の幻覚を見ています!」

「えんにち……?」


 アカリアの言っていることはわからないが、男達は金魚すくいに夢中で入ってきたキースにも気付いていないようだ。


「今のうちに行きましょう」

「あ、ああ、そうだな」


 戸惑いながらも、キースはアカリアの肩を抱いて倉庫から脱出した。

 夜明けの工場地帯を走り抜けていると、向こうから数人の男達が駆けてくるのが見えた。

 さては誘拐犯の一味かと一瞬身を固くしたが、「おーい」と言って手を振る声は聞き覚えのあるものだった。


「お嬢様!ご無事ですか?」

「ミッセルさん!」


 ミッセルと彼の部下達はアカリアの姿を見ると、立ち止まってはーっと息を吐き出した。


「クルトの奴が、次期様がとんでもねえ形相で走ってったって心配してましてね。もしかしてなんかあったんじゃあ、と思ってたところにお二人を乗せた馬車が戻ってきてお嬢様がさらわれたって言うじゃありませんか。次期様は犯人のところに乗り込んでいったけど場所がわからないって言うし」

「ああ。一人で来いと書いてあったので、呼び出された場所の手前で降ろしてもらったからな」


 キースが言うと、ミッセルはがりがり頭をかきむしった。


「そういう時は一人で行っちゃいけませんよ。まったく、肝が冷えました……」

「すいません。心配かけて」

「それで、お前達はどうやってここがわかったんだ?」


 キースが尋ねると、ミッセルは顔をしかめてみせた。


「このところ、うちの店の周りをうろちょろしてた輩がいましてね。そいつをとっ捕まえてかまかけてみたらあっさり白状しましたよ。ナリキンヌ商会の仕業です」

「そうか……」


 ナリキンヌ商会、と聞いて、キースはぎゅっと目をすがめた。


「まったく、強引な商売をする連中だとは知っていましたが、まさかお嬢様をさらうとまでは……私がもう少し気をつけるべきでした。申し訳ない」

「いえいえ、そんな。こうして無事ですし!」

「そういや、どうやって助かったんです?」

「キースお兄様が助けに来てくれて……」


 キースはミッセルに向かって捕まった時のことを説明するアカリアの背中をじっと見つめた。


 そして、明るくなった空を見つけて、決意した。





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