第36話 さらわれた少女
どこかの倉庫のような場所に閉じこめられて、私は埃っぽさに咳き込んだ。
『アカリア』
『大丈夫?』
「平気よ」
きんちゃんとぎょっくんを安心させたくて、私は精一杯強がってみせた。
大丈夫。ここは王都の中だし、今頃、目を覚ましたキース様が私を探してくれているはず。
ミッセル氏やディオン様も協力してくれるはずだし、すぐに見つけてもらえるわ。
だから平気。泣いたりしないんだから。
きんちゃんとぎょっくんも私を励ますように肩の上に乗っかっていてくれる。うん、私は一人じゃない。大丈夫。
『アカリア、泣かないで』
『ぼくたち助けを呼んでくるよ』
「助け?無理でしょう。きんちゃんとぎょっくんは私以外の人には見えないんだから」
私が言うと、きんちゃんとぎょっくんはぴろぴろと尾鰭を動かした。
『うん、でもね。アカリアの一番近くにいたキースなら』
『ずっと一緒にいたから、もしかしたらぼくたちの気配を感じ取れるかもしれない』
きんちゃんとぎょっくんはそう言って頷きあった。
キース様が……?
『いちかばちかだけど』
『行ってくる!』
きんちゃんとぎょっくんが私を励ますようにすこんすこんと額にぶつかった後、壊れた壁の隙間から外へ出て行った。
一人残された私は、急に心細くなって涙を流した。
「キース様……」
どうか、キース様がきんちゃんとぎょっくんに気付いてくれますように。
暗い倉庫の中で、私は祈り続けた。
***
「う……」
寒さに身を震わせて目を開けると、辺りが薄暗かった。
身を起こすと、頭がぐらぐらする。
「いったい……?」
辺りを見回すと、少し離れたところに馬車と倒れた御者の姿が見えた。
「……っ!そうだ!アカリア!」
意識を失う直前のことを思い出して、キースはふらつきそうになるのを堪えて立ち上がった。
馬車に駆け寄り、御者を叩き起こす。
すぐに王都へ戻って、憲兵に訴えなくては。アカリアを探さなくては。
「くそっ!なんでアカリアがっ……」
キースは自分を殴りつけたかった。みすみすアカリアをさらわれてしまうだなんて、なんて失態だ。情けない。
一刻も早く憲兵の詰め所に向かわなくてはと思ったキースだが、その時馬車の御者台に残されている封筒の存在に気付いた。
手にとって中を見れば、そこには「アカリアを無事に返して欲しければ一人でここへこい」という内容の指示が書かれていた。
キースは手紙を握り潰した。
(落ち着け……こんなもんを残していくってことは、こちらと取り引きするつもりということだ。それなら、アカリアはまだ無事だ)
御者は目を覚ましたものの朦朧としていたため、キースが御者台に乗り込んで手綱を握った。
馬車を駆り、夜に近づく空を睨みながら王都へ向かう。
(アカリア、必ず助けるからな!)
歯を食いしばりながら、キースは誓った。
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