第31話 炸裂!金魚すくい殺法!






 私の要請で、ミッセル氏とディオン様にも王宮へ来てもらった。


「お嬢様、言われた通り大量の桶を持ってきましたが、何に使うんです?」


 ミッセル氏にはお願いして桶とお椀を持ってきてもらった。桶には水を張って床に並べてもらい、お椀は受け取って手に持つ。


「アカリア、どうするつもりなんだい?」


 キース様は私を心配して青ざめている。


 私は皆に背を向けて、目を閉じて念じた。手の中に、ポイが生まれ出る。

 これで金魚をすくって金魚を救う。

 それが私の使命だ。


『がんばれ』

『がんばれ』


 きんちゃんとぎょっくんも真剣な表情で私の手元を飛び交う。


 田中さんはじめ、かつて戦った金魚すくいのライバル達よ。

 私に力を貸してくれ。


「私がこれから金魚をすくってお椀に移します!キースお兄様とミッセルさんとディオン様は、私がお椀を渡したら桶に金魚を開けてください!」


 私が何をしようとしているか知ると、彼らは目を剥いて驚愕した。


「この金魚をすべて!?」

「網を使わずにですか!?」

「無理だよアカリア!そんな薄っぺらい紙を張っただけのもので何が出来るんだい!?」


 口々に私を止めようとする彼らに、私はにっこり微笑んで見せた。


「心配いりません。見ていてください」


 私は腕まくりをして、水槽の前にしゃがみ込んだ。


「では、始めます。王子、私の金魚すくいを見せてあげます!」


 私はすうぅ〜っと大きく息を吸い込み、前世の記憶を辿ってポイを構えた。


「―――いざっ!」


 気合いを吐き出し、私はポイを静かに水に浸けた。片手に持ったお椀も水面に浸けて水を入れる。

 そして―――


「はいっ!」


 水面近くを泳いでいた金魚を、ポイに載せて流れるようにお椀に入れる。


「な、なんだ今のは?」


 誰かが驚く声がする。だが、集中を途切れさせるわけにはいかないので私は顔を上げずに水面を見つめ続ける。


 私は絶え間なく金魚をすくい続け、水槽の中の金魚は瞬く間にお椀に移された。


「はい!」


 私がお椀を差し出すと、誰かが慌てて受け取って新しいお椀を渡してくれる。私は次の水槽の前に移動して同様に金魚をすくう。

 水面近くにいた金魚が、驚いて水槽の底へ逃げてしまう。

 そんな時は―――


「付与能力・金魚寄せ!」


 底に逃げていた金魚達が、すいーっと水面にあがってきて私の手元に集まる。私は容赦なくそれをすくっていく。


「次!次!」


 私の目にも留まらぬ早業に、男性陣が呆気にとられているのを感じる。

 ふっ。とくと見るがいい。田中さんに後を託された金魚すくい名人の実力を!


「うりゃああああ!」


 私は次々と水槽を空にしていく。

 唖然としていた男性陣も私の勢いに飲まれたのか、私の前に金魚の入った水槽を持ってきてくれたり、金魚でいっぱいになった桶を運び出したりと慌ただしく動き出した。


『きゃー』

『きゃー!』


 跳ね上がる水飛沫に、きんちゃんとぎょっくんもおおはしゃぎで飛び回る。


「し、信じられん……なんだこれは。魔法か……?」


 呆然と呟く王子の声が聞こえた。


 大半の水槽は空になった。ラストスパート!……っといきたいところだけど、酷使したポイの紙が心配だ。この先は慎重にならなければ、紙が破れてしまう。

 どうか、もう少しだけ保ってくれ。

 田中さん、かつてのライバル達よ!我に力を!


「頑張れアカリア!」

「お嬢様、あと少しです!」

「金魚が自分からアカリアの元へ寄っていっている……これは神のご加護に違いない!我々は今奇跡を目にしているのか……?」


 キース様達が私の手元を見て応援してくれる。

 私は水槽の金魚をすべてすくい、桶に移し終えた。

 よしっ!

 残るは浴槽の中の二匹の金魚のみ。


「行くぞ!」


 私は気合いを入れ直して、浴槽の前に立った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る