第48話 二者択一だコノヤロウ
「アカリア……俺は」
実行犯三人を力ずくでふりほどいたキース様が私の前に立つ。私は泣かないように顔に力を入れた。
「キース様には拒否権はありません!おとなしく誘拐されてください!」
「いや、俺なんか連れて帰っても……駄目なんだよ、アカリア」
キース様は何かに耐えるように顔を歪めた。
「俺は、ずっと何もしてこなかった。『スキル』が役立たずだと落ち込んで、どうせ自分は出来損ないだと卑下するだけで、自分で道を切り開こうとしなかった。
こんな俺が、アカリアのように自分の『スキル』で世の中を変えようとしている人間と釣り合うわけない。
出会ってからずっと、俺はアカリアに手を引いて連れて行ってもらっているだけだった。俺はアカリアのお荷物なんだよ」
キース様の自己嫌悪に、私は目を見開いた。
同じだと思った。
私だって、前世を思い出して、きんちゃんとぎょっくんに励まされるまでは、自分の境遇と力のなさを嘆くばかりだったもの。
きんちゃんとぎょっくんがいたから、私はキース様に出会えたんだ。
今、きんちゃんとぎょっくんはいない。キース様も私の前から去ろうとしている。
キース様がいなくなるのはイヤなんだ。
だから、きんちゃん、ぎょっくん。私に、力を、勇気をちょうだい。
「だから俺は……」
「私はっ!」
私は拳を握りしめて叫んだ。
「私はっ、キース様以外がゴールドフィッシュ次期男爵になるのを認めませんっ!!」
たとえお父様がどんな優秀な人物を連れてきたとしても、私は絶対に認めない。
「キース様が継がないなら、ゴールドフィッシュ家はお父様の代で終わりです!!」
「おい、アカリア……っ」
キース様が慌てて私を宥めようとするが、私は前言撤回するつもりはない。
「選んでください!」
私はキース様にびしっと指を突きつけた。
「ゴールドフィッシュ男爵家を潰した男と呼ばれる人生を歩むか、それとも、ゴールドフィッシュ男爵の一人娘を娶って次期男爵になるか、です!!」
「……ん?」
キース様が目を点にした。
「いや〜、だって、キースがさっさと養子の籍をぬいちゃったからさぁ〜。さすがに再度養子にってのは外聞がねぇ。手続きも面倒くさいし。なら、今度は養子じゃなくて婿にすりゃいいんじゃね?って思ってさ〜」
お父様が絶妙にムカつく喋り方でキース様を煽る。
キース様はしばし呆然とした後で、カアアッと赤くなった。
「……伯爵」
「ん?」
「……商人」
「なんです?」
「我がま……第三王子」
「やんのか、コラ」
キース様がぶつぶつと呟き、覆面実行犯が覆面を外してメンチを切る。
「……俺は、彼らのような地位とか実力とか何もないし、彼らのようにイイ性格もしていない。ただの、平凡な男だ。」
「やんのか、コラ」
「それでも、」
キース様はようやくまっすぐ私を見た。
「それでも、俺でいいのか?」
力強い目にみつめられて、私は堪えていた涙をこぼしてキース様に抱きついた。
「もちろん!」
私を受け止めたキース様の手が、私をぎゅっと抱きしめる。
その瞬間、
『きゃー』
『わーい』
突然、小さな赤が視界に踊った。
きんちゃん!ぎょっくん!
『おはよーアカリア』
『おはよー』
今までどこに行ってたの?
『ずっといたよー』
『アカリアの近く』
『でも、すっごく疲れてたのー』
『キースに気付いてもらうためにすっごく自己主張したからー』
『へとへとになっちゃったー』
『だからぐったりしてたのー』
『疲れたー』
『でも、もう元気ー』
なんだ。そっか。
ずっと傍にいたんだ。見えなかっただけで。
私、一人じゃなかったんだ。
キース様に力一杯抱きついて、嬉し涙で顔をぐしゃぐしゃにして私は笑った。
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