第29話 打倒!第三王子






 まさか浴槽ごと持って行くだなんて。

 想像以上の王家の横暴に私は怒りを通り越して愕然とした。私達を追いかけてきたミッセル氏もさすがに唖然としている。


「申し訳ない。私が甘かった。先に流通させてしまえば、王子が手を出してくることはないだろうと思っていたんですが」


 ミッセル氏が額を押さえて天を仰いだ。


『なくなっちゃったー……』

『くすん……』


 きんちゃんとぎょっくんが、掘り返された場所の上をを悲しげに漂っている。

 それを見ていたら、怒りがこみ上げてきた。


 金魚は、前の世界では誰でもペットショップかホームセンターに行けばすぐに手に入れられる、小学生のお小遣いでも買えるぐらい、ポピュラーな生き物だったんだ。

 犬や猫が飼えない人でも、金魚なら飼える。金魚は身近なお友達だ。


 独り占めなんて絶対に許せない!


「キースお兄様!私、第三王子に直談判に行ってきます!」

「え?」


 勢い込んで駆け出ていこうとした私を、キース様が慌てて止めた。


「待つんだアカリア!危ないから!」

「でも、こんなの許せませんよ!」


 このまま何もせずにいたら、第三王子はきっと金魚を「未知な危険な生き物」とでも発表して流通を禁止してしまう。そして、自分だけで独り占めにするんだ。


「落ち着くんだ、相手は王族だ。いきなり行ったって会ってももらえないよ」

「うう〜……」


 悔しくて涙が出てきた。

 私だって貴族の端くれだ。王家に直談判なんかしたら、お父様とキース様がどんなに困ったことになるかぐらい想像がつく。

 だけど、あまりに悔しくて、私はキース様にすがって泣きじゃくった。


 キース様が私の頭を撫でてくれて、きんちゃんとぎょっくんが私の頬をつくつくつつく。


『泣かないでー』

『泣かないで』


 そう言う二匹の声も悲しそうだ。それでも、私を慰めてくれている。


「アカリア、第三王子殿下にお会いできるように我が家から申し入れておく。お会いしてもらえるかはわからないけれど」


 ディオン様も気遣わしげに言う。

 私はキース様から離れて涙を拭った。

 そうだ。私だけが悲しんでいる訳じゃない。金魚を取り上げられた人達はきっと傷ついている。


「キースお兄様!私、金魚を取り戻して、取り上げられた人達に返したいです!」


 本来なら領地に帰る予定だった。でも、このまま帰るだなんて出来ない。


「しかし、アカリアがこのまま王都にいたら……」


 何かを言い掛けたキース様を遮って、夫人が庭に駆け込んできた。


「ディオン、王宮から使いがやってきて、ロベルト王子殿下がキース様とアカリア様を呼び出していると」


 キース様が私の肩に手を置いて、ぎゅっと力を込めた。

 私はその手に手を重ねて、大きく息を吸い込んで覚悟を決めた。





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