第13話仲間
=都内多摩地の山林=
「きついいいいいいい…。ラーン、待ってよおおおお。」
「待たないよ、エリはそこで休んでても良いから。道は一本しか無いんだから無理に付いてくることも無いんだよ?」
「…ラン、お前も学習しないな?エリはドウリキからの情報にだって除け者にされたって言って拗ねていたんだぞ?」
「それは分かっているけど、俺はそれでも一刻も早くこの人に会いたいんだ!…それもしても宗吾さんは本当に良い人だな。」
「俺の兄貴なんだから当然だろ?」
ランはチームメイトの創也それからエリと都内では珍しい山林部に足を運んでいた。
それはこの地域にドウリキより先にアルテミドラッグを使用した『元教師』が住んでいると知ったからだ。
ランはその人に会うべく山林に敷かれ山道をチームメイトと共に歩いているのだ。
アルテミ研究所で宗吾から手渡された紙にはその元教師の住所と過去に行われた事情聴取で取られた調書の内容も丁寧に書かれていた。
そしてその内容を見たランは一刻も早くその人物に会わねば、と言う使命感に駆られているのだ。
「ラン、…お前、例の教師がドウリキの元担任だったからって焦りすぎだ!!一度戻って来い、仲間をそっちのけにしてまで急ぐこともないはずだ!!」
「っ!!」
創也がランに向かって叫んだ内容は宗吾から受け取った紙に書かれていた事だった。
その事を知ったランは創也の制止も聞かずにここまでやって来てしまっていた。
それはランがその教師が何故アルテミドラッグに手を染めかけたのかを知ってしまったからである。
何よりも自分のチームメイトがそのアルテミドラッグの被験者に選別されようとしている現状にランは我慢がならなかったのだ。
「ラン、前のめりになり過ぎだ!…少しは冷静に自分の周りを見渡してみろよ…。」
「来週には被験者が選別されるかもしてないって時に……エリ?」
ランは創也の忠告に反応して振り返ってみるとその先には足を挫いたのか、その場で蹲るエリの姿を捉えてしまった。
周囲の忠告も聞かず自分は仲間の為に、と焦った結果がその仲間を傷つけることになると、普段であれば気付けた事を今更になってランは思い知ってしまったのだ。
「ラン、ごめんね。先に行ってて、私はここで少しだけ休んでから追いかけるから。」
エリは涙を滲ませながら焦るランに気を遣っていた、それなのに自分はその仲間に自分の考えを押し付けてしまっていた。
エリの何気ない一言がきっかけでランは自分の姿を客観的に捉えてるになった、そして如何に自分の行動が愚かだったかを後悔していた。
「いや、俺が悪かったよ。創也、俺がエリを担ぐから。」
「お前なあ、どう結論付けたらここでその選択肢を選ぶかな…?」
ランは呆れる創也の言葉を遮ってエリに自分の背中を見せながら手を差し出していた。
「ほら、エリも乗ってくれ。急ぐから。お前は俺たちの大切なチームメイトなんだよな。」
「ラン…、ありがとうね。」
エリもランの何かに覚悟した様な、そんな表情を見たことで彼の申し出を素直に受け入れていた。
先ほどの焦りを全面に押し出した表情ではなく、一人焦るのではなく仲間と同じ歩幅で歩くと決めた、そんな表情である。
「…はあ、ランも冷静になったのなら何も言わないけど…ドウリキとエリのためだからって少し気を張り過ぎなんだよ。」
「え?ドウリキ君だけじゃなくて私もなの?」
「………。」
「あらら、ランは照れたかな?エリ、こいつはさっき兄貴がアルテミドラッグの被験者候補にお前が選別されるかもって聞いて焦ったんだよ。」
「ラン、……そうなの?」
「別にお前だけじゃないから。宗吾さんの話だとこの中の誰が選ばれても可笑しくないって話だったろ…。」
「ラン、…そうだよね!!先ずはその先生に会いに行って話を聞かないとだね!!」
ランはこのチームRの中で最も仲間意識が強いのだ、その想いは仲間に依存していると言い換えても良いほどだ。
それ故か、このチームがバラバラになる事をランはこの三人の仲で最も恐れているのだ。
目の前で仲間が危険にさらされた場合、例えチームのエースである自分が、リーダーである自分が危険に晒されたとしても迷わず盾になる。
それがランという男なのだ、だがだからこそ創也とエリはこの非効率な男とチームを組んでるのである。
「…ラン、後で俺もエリを担ぐの変わるからな?お前だけ疲れてくれるなよ。」
「エリがもっと軽くなってくれれば良いんだけどな。」
「ああ!!ランが酷い事言った、女子に一番言ったら行けない事を言った!!」
「エリ、頼むから大人しくしてくれの…。足に響くから。」
「うん…、分かった。」
仲間を想うランの優しい声に担がれながら暴れていたエリも、彼の想いに応えて黙って担がれることを選んでいた。
…チームRの暗黙のルール、助けられる仲間と助けるべき仲間は自分自身で選ぶこと。
チームの結成当初にリーダーになったランの発案したルールだ。
そしてこの発案を否定せずにずっと守り続けて来たからこそ、このチームには絆が生まれのだ。
「…ここでゴネても仕方がないから?とりあえず山小屋へ向かいますか。」
チームRの面々はそう呟いた創也の言う通り、この上にあるはずの山小屋を目指すのだった。
そこに件の教師はそこにいるのだから。
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