チーム
こまつなおと
第一部
第1話ライバル
1話
=20XX年 都内某所…=
「くっそ!! 三人もいたトラッパーが全滅するなんて……、化物か?」
一人の少年が全力で森林地帯を走りながら呟いていた。
この呟きはある少年に対しての向けられたものだ。
この少年はチームを組んでいた仲間を三人も失った事で大きく動揺していた、そして、その仲間を失う事になった原因が彼の呟きの根本である『ある少年』にあるのだ。
日本防衛軍特別育成学校・演習場A、それがこの少年がいる場所だ。
「スナイパーチームは無事か!? ……接近組は俺以外全滅だ…。」
『……こっちも壊滅状態。修二、悪いけど私たちの援護は期待しないでね……。』
「そうか……。お前たちは適宜タイミングを見計らって脱出してくれて構わない!」
『うん、悪いけどそうするね。……これ以上ランのチームに差をつけられる訳に行かないもの。』
修二と呼ばれたこの少年は仲間との通信を切った後に自分の表情が歪んでいく事を実感していた。
……修二は悔しかった。
その理由はどの様なものだろうか? 単純に仲間を失ったからか?
「……お前らはチーム編成のバランスがおかしいんだよ。どう結論付けたらチーム内アタッカーがお前だけになるんだ?」
修二の前に何の前触れもなく一人の少年が現れた、いや、待ち構えていたと言う表現が正しいだろう。
「くっ……、うるさい!! ラン、お前だけは絶対に倒してやる!!」
「修二、……お前は俺を倒すことに拘り過ぎてるんだ。これはチーム戦だぞ? 自分の願望を仲間に押し付けるなよ。」
「これはチームの総意だ!! 俺たちチームSはお前だけを倒せれば、……それで良い!!」
ランと呼ばれた少年は小さくため息を吐きながら一歩ずつ修二に向かって近付いてくる。
その歩みと表情は客観的に見れば、とても余裕があるように感じられる雰囲気を醸し出していた。
……実際ランには余裕があるのだ。それだけ、この二人には実力の差があると言う事だ。
「……その執念には感心するけど、俺も負けてやる義理はないんでな。」
ランは修二に向かって一言だけ告げると、そこから歩みを早めて走りだした。
敵に対して正面から距離を詰める、この行動の意図は一切の小細工を使用しない、と言うランから修二に向けられた宣戦布告である。
そしてランは走りながら腰に差したブレードを抜刀した、すると、そのブレードは光を帯びながら彼の手元から拡張した。
拡張したランのブレードは目の前で構えを取っている修二に牙を向けていた。
ランのブレードは修二に向かって元々の剣身から、その長さを伸ばし続け、そして走っていく。
「ランンン!! そう何度も同じ手を喰らうかっ!!」
「……お前は俺がそう何度も同じ手を使うと思うのか?」
ランの放った拡張するブレードに対して修二は背中に背負っていた二本目の剣を構えて防御の態勢に入った。
だがランの放ったブレードは彼の行動を嘲笑うかのように拡張する軌道を変化させて……修二の後方から背中を刺突した。
「がっ!! …ブレードが曲がるだと!?」
「修二の場合はそれ以前に俺との戦力差があるから、勝手に敗因に決めるなよ?」
ランは自分の放った攻撃を背後からまともに喰らいその場で倒れ込んでいる修二に対して、何とも辛辣な言葉を口にした。
だが、ランはこの修二が嫌いでは無い。
そしてその事を知っているからこそ修二も倒れ込みながら、自分の負けを素直に認めたのだ。
「くっそおおおおお!!Aクラスに配属されてからランのチームに50連敗!!次は負けないからな!!」
「ふう、みんな聞こえたな?敵チームのリーダーを撃破した。戦闘終了だ。」
『チームSのリーダー撃破及びチームの全滅を確認。チームRの勝利です。』
演習場にランのチームが勝利した事を告げるアナウンスが木霊すと、対峙していたランと修二は同時にその場から姿を消すのだった。
………
=日本防衛軍特別育成学校 Aクラス教室=
「がああああああ!!また負けた…、どうやったらランに勝てるんだよ!?」
「今回は他のチームに助っ人を頼んでまで戦力を補充しているからね…、さすがの俺も当分は立ち直れないわ。」
「レンジ!!俺たちのチームがAクラスの2位である以上は1位のランとは演習を避けられないんだぞ!?」
「修二も落ち着きなってば…、実際のところ私も今回ばかりはショックを隠せないよ。」
「マキもかよ!?…何だか怒ってる俺が馬鹿みたいじゃ無いか…。」
「いやあ、修二の気持ちは分かるけどさ…でも俺たちだって3位のチームとは同じような状況なわけで決して弱くは無いんだよ?寧ろ強いと胸を張りたいくらいなんだけど…。」
「レンジの言う通りだね、三年になってから万年2位の私達。そしてラン達は目の上のタンコブ…、何なのよお。」
ここは日本の都内某所にある政府が設立した国家防衛隊員の育成機関である。
何故この様な育成機関が設立されたかと言うと、それの理由は約十五年目に遡る。
十五年前のある日、この地球に宇宙人が襲来したのである。
その時点では当時の誰もが『宇宙からの来訪者』と言う神秘にも似た言葉に心を躍らせ、歓迎ムード一色となった。
そしてその歓迎ムードに気を良くした来訪者は地球の人類と友好の握手を交わして、交易を始めたのだ。
だがその来訪者は地球の文明が自分達よりも遥かに劣ると判断するや否や、友好を捨て武器を手に取り侵略を始めた。
そして文明で劣る地球人類は彼らの遥かに進んでいる文明を取り入れる事で戦力を蓄えて、反撃に出たのだ。
ここ育成学校はその文明を操るために必要とされる、とある『力』を保有する才能溢れる若者達を選別する為に設立されたのである。
そしてここAクラスは、その育成学校内でも特に優れた才能を有すると認められた若者が集まったクラスなのである。
「ほらっ、修二。さっきはお疲れさん。お前らに差し入れだよ。」
何の前触れもなくふらりと教室に姿を現したランが憤慨する修二を含めた彼のチームメイトにペットボトルを差し出してきた。
このランは育成学校に入学以来、常に学年ではAクラスに在籍し続けその中でも1位に君臨するチームを率いてきたリーダーだ。
…要は『エリート』である。
そんな彼とは対照的に机で項垂れている修二は入学当初は最下位であるF組に配属されながらも、最終学年である三年生になるまでの間にAクラスに駆け上って来た人間だ。
周囲からの彼に対する評価は『努力の人』、それは誰もが認めるものであり当の本人さえも納得している正当な評価だ。
「うううううっ、お前にだけは見下されたく無いんだよ!!こんなもん受け取れるか!!」
「何を馬鹿な事を言ってるんだ?…俺はこの学校で誰よりもお前を認めているさ、何しろ入学してから俺との実力差を確実に埋めて来ているのはお前だけなんだから。」
そう、ランはこの育成学校に入学して以来、実有演習では無敗を貫いて来た。
確かにランには他の追随を許さないほどの才能があり、それは周囲も認める事実である。
だが彼にはこの『修二と同様』に努力する才能にも恵まれていた、その結果として同級生達はもともと存在していた彼との実力差をさらに突き放され続けて来たのである。
…目の前で嫌々にペットボトルを受け取っている修二を除いては。
「あ、あの!ランってば今さっき直接対決で負かした人に差し入れをするのはちょっと…。」
「エリなんて修二が助っ人に呼んだ他チームのトラッパーを全て狙撃してるんだから今更だろうに?」
「ううう…、でも見つけたからには撃たないと。それにランだって目を輝かせながら無茶な突撃をするのが悪いんだからね!!創也もなんか言ってよ!!」
「エリもやめときなよ。これ以上は修二達を目の前にして話す事じゃ無いだろう?」
このエリと創也、二人はランのチームメイトである。
この二人もランほどでは無いが確かな才能に恵まれており、彼が学年で無敗を貫き続けている大きな要因である。
近距離のラン、中距離の創也そして遠距離のエリ。
それぞれが得意とする射程におけるスペシャリストである。
「そう言えばレンジに聞きたい事があったんだ、今回のお前らの助っ人は3位チームか?」
「ん?ああ、そうだよ。でも創也が殲滅したスナイパー組は違うぞ?」
「妙な嫌味はやめてくれ…。あいつらって最近になって急成長して来た奴らだろ?確かお前らと同じで三年生になってからこのクラスに配属されてたはずだけど。」
「だね。…俺たちと同じ立場とは言ってもあいつらの場合は三年の一学期に突然強くなったみたいだから俺たちも詳しくは知らんけど。」
この育成学校は学期ごとの期末試験の結果でクラス替えをする、つまりは生徒同士の実力に見合った演習を行える様にその相手となるクラスメイトを頻繁に更新するのだ。
それ故に修二達の様な期末試験毎に着実に順位を上げて来た生徒は必然的に周囲の注目を浴びるとこになるわけだが、創也の言う3位チームは三年生への進級時点でFクラスの10位。
それはこの育成学校全体で最下位を意味するのだ。
そんなチームがたった一回の試験結果でAクラスの3位にまで駆け上がる、これは修二達とは違い悪目立ちするのは当然だと言える。
「ええ!?それは私も知らなかった!!マキちゃんは知ってたの!?」
「エリリンは本当に可愛いんだから!!もう、チュウーしちゃうぞ!!」
「…マキは自分が質問を受けてるって気付いてないのか?修二の苦労が身に染みるな。」
「ランも本気で俺を哀れむなよ…。だけど俺も助っ人を頼んでおいて言いたくは無いけど、確かにあのチームは不気味だよ。編成メンバーも学校のチーム編成規定上限の6人だし、その内の3人がトラッパーで2人はスナイパーだからな。」
「で、お前はそのチームからトラッパーを借り受けたわけね。さっきの演習ではトラッパーなのに物量で押し切るタイプだったよな?」
「…ランもそう思ったか?そうなんだ、奴らは戦闘技術が稚拙なんだよ。だからか『アルテミ』に物を言わせてゴリ押しに戦っている様に感じたな。」
『アルテミ』、それは宇宙からの来訪者の文明を支えてる根幹にして、その文明たるアイテムのポテンシャルを最大限に引き出すための土台となるもの。
つまりはこの『アルテミ』を自在に扱える事がこの育成学校におけるヒエラルキーを決定する。
そしてそれは配属するクラスのランク、ひいてはクラス内におけるチーム順位にも大きく影響を与えるのだ。
「…あいつらもAクラスに配属されてから負けなしだったか?この前の演習もリンに勝って入れ替わる形で3位になっていたな、修二も足元を救われるなよ?」
「はんっ!!人の心配とは余裕な事で…、相変わらず気に入らねえな。」
「友達として心配してるんだよ。だけどそんな憎まれ口を叩けるんだったら不要な心配だったかもな。」
「まったく…、ごめんねラン。うちのリーダーって恥ずかしがり屋だから。」
マキは先ほどまで嫌がるエリに接吻の嵐をお見舞いしていたが、いつの間にか真面目な顔をしながら蘭に謝罪していた。
「マキの言う通りだよ。だけどランだって油断なんかするなよ?俺たちの目標は1位に君臨するお前らを叩きのめす事なんだからな。」
レンジは修二のようにその感情を表には出さないが、心の内に秘めている熱い思いは修二と同様のものだった。
そしてそれはマキにも言える事である、彼らチームSは目標を同じくする事で結束力を高めているのだ。
その結束力こそが彼らをAクラスの2位にまで押し上げた要因といえるだろう。
時には仲間を想い、ある時は割り切って仲間を切り捨てる、だから切り捨てられてた側も目標の為だとそれを恨めしく思わない。
チームSのそんなチームワークをチームRの面々は快く思っていたからこそ、この6人はクラス内でも友好的な関係を築けているのだ。
「レンジ君も簡単に言うけど…次の私たちの相手って先生チームだかね?油断なんかしたらグラウンドを何周走らされることか…。この前も創也が余計なことをした罰に100周だよ?」
「うーん…、あれには俺も納得してないぞ?事前に長期戦になるのは想定出来るるんだからレーションくらい好きなものを準備しても良いだろうに。」
「なるほど、その結果が演習にすき焼きセットを持ち込むことに繋がったと?修二、創也とレンジを交換しないか?」
ランは修二にチームメイトの交換を提案するも、6人は清々しい笑い声を上げていた。
そしてそんな6人の関係はクラスメイト全員にも周知されており、周囲の目も必然的に穏やかなものだった。
笑い合う6人とそれを暖かく見守るクラスメイト、それがこのAクラスの実情である。
…だが、この雰囲気にそぐわない視線を彼らに向けるもの達がいたのだ。
そしてこの後、昼食のために一度解散したチームRとチームSだが、その後に驚くべき事実を突き付けられれることになるのだった。
……チームSが件の3位チームに惨敗したのである。
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