第9話友達

「はあ、はあはあ…、疲れた。」


演習に勝利したランは突き上げた拳を維持することすらも疲れたと言わんばかりにその場に座り込んで、そのまま視線をドウリキに移した。


すると倒れたまま微動だにしなかったドウリキがランに向かって話しかけて来た。


「ラン、俺の負けだ。……後で片桐先生に『アルテミドラッグ』を使用したことを自白するよ。それで良いか?」


「…いや、それだけじゃ駄目だね。」


「えっ!?…そうか、修二にも謝らないとな。」


「ドウリキ、そうじゃないだろ?まず誰よりも最初に謝るべき人がお前にはいるはずだ。」


ランの声には決して怒りの感情などが含まれていないことはドウリキにも分かっていた。


だが誰に対して謝罪をすれば良いのか、ランはドウリキに教えることは無かった。


すると次の瞬間、漸くドウリキにもランの言葉の真意を理解することが出来たのだった。


『ドウリキ君、…ごめんなさい。』


先ほどチームRの勝利を告げるアナウンスをしていた片桐先生がドウリキに対して謝罪をしたのである。


このアナウンスを聞いてか、それともランの真意に動揺したかは分からないがドウリキは倒れ込みながら激しく泣き崩れていった。


『ラン、お疲れさん。流石はチームRのリーダーだな。』


「創也か、今回は我が儘を通して悪かったな。」


チームの勝利が確定すると通信を使って創也がランに声を掛けて来た、その声は勝利の嬉しさからかとても弾んだ声だった。


『良いさ。それよりも今日は学校が終わったレンジたちが俺たちの祝勝会を開いてくれるらしいぞ?』


「おお!!それは良いな…、と言うか俺にはこのタイミングまで内緒だったのかよ。」


『そう言うなっての。お前がずっと気を張り詰めていたから言い出せなかっただけだよ。』


ランは創也に言われて初めて今回の演習に自分がどれだけの想いを掛けていたか思い知らされた。


だが、そのランも戦いを通じて原因となった男の本音を知ってしまい、その男にどう話しかけて良いものか悩んでいたのだ。


しかしそれは創也に自分の心境の変化を指摘されたことで、その悩みも大した問題では無いと思い始めていた。


するとランは自然とドウリキに声を掛け始めていた。


「ドウリキ、俺はこの演習が始まるまでお前なんて大嫌いだと思っていたよ。」


「…ラン、だろうな。」


「でもな、ずっと努力して悩んで苦しんで…悲しんでいたお前を知って良かったと思っているよ。」


「ラン?」


「それに教科書にも載っていない様なアルテミの効率的な取り込み方法を自力で見つけ出したんだから、お前は落ちこぼれじゃないよ。寧ろいまは凄い奴だとお前を尊敬してる。」


「……。」


「だから友達になろう。今度一緒に学食で昼食でも食べようぜ?」


「ぐずっ!!……俺は購買派だよ。」


「だったら学校終わりに買い食いするでも良いさ。ドウリキ、お前は一人じゃないんだから。」


「ラン、ありがとうな。…実は俺も思い知らされたことがあったんだ。お前は片桐先生が俺のせいで悩んでいたって言っていただろ?」


「…その通りだ。」


「片桐先生をそこまで追い詰めておきながら裏切った自分が憎い。だがそれ以上にお前が俺のことを知っていてくれたことが嬉しかった。…我ながら現金な奴だと思ったよ。俺って最低だろ?」


「たまたま職員室に用事が有って入ったらお前のことに悩んで一人泣いていたんだよ…、片桐先生が。そこからだな、お前を知ったのは。」


『ちょっと、ラン君!!それ以上言ったら宿題を追加しますからね!!』


「えっ!?先生ってばそれは無いでしょう!?」


『問答無用です!!……二人とも、演習場から出てゆっくり休みなさい。これは先生からの指示ですよ。』


片桐先生はアナウンスを通じてプリプリと怒っていたかと思えば、今度は穏やかな声になって生徒のことを心配していた。


そしてその声に反応したのか倒れ込んでいたドウリキも泣きながら笑顔を浮かべだしている、その様子を見てランも自然と笑みが零れ落ちていた。


だがそんな浮かれた様子のランに一人のチームメイトの通信が彼を現実へと引き戻すのだった。


『ラン、創也?エリだけど、…さっきの話は覚えてるよね?……人の恋路を弄ってくれた落とし前……付ける覚悟はどうかしら?』


先ほどまで自分のことを本気で応援してくれていたエリの声色が恐ろしいまでに低くなっていたのだ。


このエリの声色を聞いてランだけでは無く創也も演習中にむやみやたらとチームメイトの恋愛事情を弄るものでは無いと心に誓うのだった。

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