第3話調査

=チームR専用ブリーフィングルーム=


ランたちチームRは医療室を退出した足でそれぞれがドウリキ率いるチームDについて調査を始めた。


そして今はその調査報告の為、各チームに支給されている校内の専用ブリーフィングルームで机を囲んでいる真っただ中にいるわけだが。


「…で、エリは何か分かったか?」


「うん、分かったような分からないような、何とも言えないのよ。だってドウリキ君は最後にF組にいた時点まで存在感がすごく薄かったらしくて、クラスメイト全員が彼のことを覚えていないのよ。二年間ずっとクラスメイトだった人の記憶すらないなんてあり得るの?創也は何か情報手に入った?」


「一応はね。チームDの編成はアタッカー1、トラッパー3、スナイパー2だ。それでもアタッカーであるドウリキは大剣を二つ装備してはいるけど、防御に集中しがちだから超守備型の編成だな。これなら修二がやられたのも一応は納得出来る。」


「創也の言う通りだ。修二は典型的な馬力型のアタッカーだから、守備重視のカウンター編成にだけは足元をするわれる可能性がある。マキもレンジも修二の気持ちを汲む傾向にあるから、結果的にチーム戦術自体が前のめりになり易いからね。」


「ランの言う通りだ。だけど…この六人編成、これも中々珍しいね。」


この育成学校へ入学するとその時点で気に合う仲間や自分の欠点を補ってくれるクラスメイトとチームを結成して、そのチーム単位で演習や訓練をこなして行く事になる。


だが入学時のオリエンテーションではチーム編成時の推奨人数は3〜4人なのである。


それは演習などで他のチームへの対策として、他チームに助っ人を依頼する事が規定上で認められている為だ。


その為、最初から編成規定の上限である六人でチームを編成する生徒は中々いないのが通常と言う事になる。


「それにしてもドウリキとそのチームメイト、こいつらは演習だけではなく訓練でも目立ち出したのが三年の一学期になってからか…。たったの二カ月で何があったんだ?」


「それがねえ、訓練の記録を確認したけど操るアルテミの絶対量が急激に上昇してる感じね。…今年の一学期と比べると20倍ってところ。」


「おい、エリ。それはいくら何でも測定ミスなんじゃないのか?」


「創也ってば失礼極まりないからね。私だってそこまでドジじゃないから、…それにこれは訓練の記録だから測定したのは片桐先生だよ?」


「エリ、測定値の変化についてはどうだった?」


「あー、うん。ランに言われて気にしては見たけど、と言うよりもこれは言われなくても気になったわ。だってたった一日でアルテミの測定値が20倍になってるの。これはドウリキ君だけじゃないわ、そのチームメイトも同じなのよね。」


アルテミは空気中にある粒子で人間がそれを利用する為には一度、体内に取り込む必要がある。


そして人間は体内に取り込んだアルテミを自分が使用する道具や武器に注入することで特殊な効果を発揮出来るのだが、ここで個人差が生まれ易い要素はその注入量である。


注入量が少なければその効果も期待出来ないが、逆に多ければ絶大な効果が現れるのだ。


そしてそのアルテミの注入スキルこそが最も分かり易い個人差であり、才能の尺度となる。


これには俺たちチームR内でもそれぞれに得意分野が存在するわけで、そしてそれらにあった形のアルテミに対する才能を保有しているからこそ育成学校内でも認められている。


だがその才能も入学当初から認められていた俺たちチームRと、日々の努力によって才能を開花させた修二たちチームS。


これらのケースは良く見受けられるが、ドウリキの様な『ある日突然』と言うケースはあまり見られないのだ。


「…結局分かったことは修二が負けたことに対する後付けの理由とドウリキの不可解な成長速度か。」


「ラン、それにエリ。これはまだ噂の範囲だと思って欲しいんだけど、『アルテミドラッグ』と言うモノがあるらしいんだ。」


「『アルテミドラッグ』?…また宗吾さんからの情報か?」


創也にはとても優秀な七つ違いの兄貴がいるのだが、その兄貴はこの育成学校と同じ政府が設立したアルテミ研究所の研究員をしているのだ。


その為か創也はたまに巷には流れて来ないような情報を持っている場合がある。


だがそれらの情報はランのチームの勝利に貢献してくれる事もあるが、それは稀である。


今回に関しては眉唾な噂ではあるが違和感の原因が分からない時点で、そうとも言い切れない状況になっていることは完全に否定できないわけだが。


「ああ。兄貴が言うにはそれを定期的に摂取すると『ある日突然』にアルテミの測定値が急上昇するらしいんだ。…しかもそれを巷に流通させている人物が謎に包まれているって話だから政府も警戒しているんだとさ。」


「創也はドウリキ君がそうだって言いたいの?」


「そこまでは断言できないけど…やっぱり一日でアルテミの測定値が20倍になるって言うのは黒い影を感じるよ。」


ランは創也の情報を耳にしてから深く考え込み始めた、だがこれは決して珍しいことではない。


寧ろいつものことだからこそ創也とエリは黙ってそれを見守る姿勢を見せているのだ。


今回の様に演習前に対戦相手の情報を整理するブリーフィングは演習毎に行なっている。


それが入学から演習で無敗を誇る彼らの土台となっていることは三人だけの密かな自慢である。


そして数分間保たれた静寂の後にランは静かに口を開き始めた。


「…例え対戦相手が怪しいクスリを使っていても強いことに変わりは無いし、それを証明するものもないんだ。いつも通りに油断なく演習に挑もう。後は各々録画を確認してくれ、戦術は俺が考えておくから演習当日のブリーフィングで連絡する。」


「「了解。」」


「良し、それじゃあ解散!」


ランがブリーフィングの終了を創也とエリに告げると三人はそれぞれの帰路に着く為、ブリーフィングルームを後にするのだった。


だがランは気付いていた、ドウリキには、チームDにはブリーフィングの内容以外に違和感があると。


一つはチームDのスナイパーが異常なまでの攻撃力を有していること。


アルテミを用いた戦闘において攻撃力はアルテミを注入する道具や武器が発揮する効果に依存される。


一方、防御力については自分の体に如何にアルテミを取り込むかにかかっているのだ。


修二の体内へのアルテミ取り込み許容量は常人の3倍、その彼に決定的なダメージを与える為にはスナイパー二人分の攻撃力がそれを上回る必要がある。


それは三年生の一学期終了時点でF組にいた生徒としては異常な成長速度と言える。


二つ目はドウリキ自体の防御力だ。


ドウリキは修二を道連れにして同じ攻撃を受けていたのだ。


にも関わらず修二は重傷を負い、ドウリキは無傷。


これはドウリキが体内に取り込めるアルテミ許容量が修二のそれを凌駕していることになる。


これも一つ目同様に異常な成長速度と言える、寧ろそれすらも超越したものだとランは感じているのだ。


それこそ創也の話していた『アルテミドラッグ』の存在に現実味が帯びてくると言うものだ。


だがランはこの件はまだ創也とエリに話すには確証が足りなかった為、口にすることが出来なかった。


ランはこの違和感を胸に抱えながら二人と共に校門へ歩いていくのだった。


=日本防衛軍育成学校 校門=


この学校には二種類の生徒が在籍している。


それは『地元組』と『越境組』である。


この学校は政府が設立した為、入学費や学費の面でとても優遇されている。


その上、卒業後には日本防衛軍と言う国家公務員待遇となる職場への就職が約束されている事から、都外からも受験を目指す学生が数多く存在する為、入学試験の倍率が恐ろしく高くなっている。


そしてランは後者の『越境組』である。


ランは創也とエリの二人と校門で別れるとそこから育成学校まで徒歩十五分の自宅アパートに向かって歩き出した。


自炊が出来ないランにとってはこの15分がその日の夕食に何を食べるか、それを決める時間となる。


いつもの登校経路の真逆を歩くこの時間で夕食のメニューを決める、彼はこの時間が嫌いではなかった。


それ故にその風景に違和感をあると直ずに気付くことができるのだ。


「この神社ってあんなに御神木が傾いていたかな?」


ランの自宅アパートと育成学校のちょうど中間地点には地元でも有名な御神木が敷地内に生えている神社が存在する。


密かにこの御神木を目印に登校しているランにとっては、天に向かって真っ直ぐに生えたこの御神木が傾いていることは大事件と言える。


ランが御神木をぼんやりと眺めているとその視線の先に違和感を覚えた。


それは視覚ではなく聴覚での違和感だ、御神木の方向から衝撃音が聞こえたのだ。


「がああ!!」


ランは衝撃音の後に人の叫び声を耳にした。


これは明らかに可笑しい、そう思ったランは即座にその場から御神木に向かって走り出していた。


そして御神木の近くに辿り着いたところでランはその違和感の正体を知ることになった。


ランは御神木の近くに立ち尽くすドウリキと倒れ込んだ修二をその目にしたのだ。

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