幕間
第10話和解
=そしてチームDとの演習から三日後、駅前のハンバーガー屋の店外テーブル=
「はああああああああ…、疲れたあああああああああああ。」
「ラン、お前のせいだからな?」
「修二!?あれって俺のせいなのか!?」
「いやあ、俺とランのせいだね。…修二、すまん。」
「うーん、どうだろうね。あれはエリとマキが過剰だったようにも思えるけど?」
「レンジ、俺たちチームRは演習中に女子の恋愛事情に茶々を入れないことを規定に加えようと思っているんだ…。」
「ランって修二と同じで演習以外は馬鹿だよね?創也もそう思うだろ?」
「いやあ…、それを言われると俺も何も言えなくなるから。」
「「レンジ!!誰が馬鹿だって!?」」
ランは創也とチームSの修二、レンジと一緒に学校の最寄り駅近くにあるハンバーガー屋で椅子に腰を掛けながら項垂れていた。
何故男子四人でこのような状況になっているかと言うと、事の発端は先日行われたチームRとチームDでの演習での出来事が原因だった。
その演習の中でランと創也はチームのスナイパーであるエリに対して話の流れから彼女の恋愛事情に茶々を入れてしまった。
そしてそのことがエリの逆鱗に触れてしまい、演習後の祝勝会でも散々に怒られたのだ。
終いにはエリどころか彼女の親友であるマキまでもが怒り始めて、収拾がつかなくなってしまった。
そしてその状況に業を煮やしたレンジが助け船を出してくれたは良いが、その内容がランと修二がエリたちとダブルデートを決行すると言う内容だったのだ。
レンジが言い出した時は当の本人であるランも逃げる事しか考えていなかったが、巻き込まれる形となった修二が快く了承をしたことで俺だけでは無く創也までもが外堀を埋められることになってしまった。
そして今日はそのダブルデートの決行日であり、つい30分前にそれが終了したので、男子だけで反省会を開いているのである。
「修二ってエリのこと好きなのか?だから今日のことを快く承諾したのか?」
「…煩い!女子が俺のことを好きだって言ってくれたんだから、無下に扱うことも出来ないだろ!!そう言うランは女子の扱いが雑過ぎるんじゃないのか!?」
「それを言ったら…さっきの映画館だってポップコーンぐらい男が金を出してやれよ?……このケチ。」
「ランは何を言うか!!俺だってお前と同じで越境組なんだから贅沢できる金は無いんだ、寧ろお前が……!!」
「まあまあ、ランと修二も落ちつけって。…そんな下らない事よりも真面目な話をして良いかな?」
「創也もデートの反省会を下らないとか言ったら、…あの二人に怒られるぞ?」
「レンジも黙って聞けって。…ドウリキのその後についてだよ。聞く気になったか?」
創也の言葉にその場の全員が目の色を変えて前のめりに姿勢になった。
だが創也の話題はここにいる全員が気になっていた事だけに仕方がない事だろう。
先日の演習後にドウリキは約束通り片桐先生に『アルテミドラッグ』を使用して成績を上げたことを自白したのだ。
だが先生も流石に一人では決断を下すことが出来ず、その話を学校側に伝えることになったのだ。
その件についてはドウリキも『責任は自分たちにある』と言って納得していた様子だったが、それからチームDのメンバーは学校で姿を見かけなくなった。
気になった俺たちチームRとチームSの一同は片桐先生に問いただすも、『ことが治まったら話します。』としか言わず、終いには当の先生までもが学校に姿を見せなくなったのだ。
俺たちはここ三日の間、そのことが気になり過ぎて寝不足なのだ。
「創也、…それはどこからの情報だよ?」
「兄貴からさ。何でもあの後、ドウリキは片桐先生と一緒に兄貴の所属するアルテミ研究所へ行ったらしいんだ。」
「おい…、それってこんなところで話して良い内容なのか?」
「修二は相変わらず真面目だねえ、俺もお前の垢を煎じて飲んだ方が良いかな?」
「おい、創也も修二を茶化している場合か?言うんだったら出し惜しみをするな!」
「レンジも顔が怖いって。…学校側のドウリキに対しての処分は当初は退学だったらしい。」
「何だと!?…確かにあいつの言動には問題が無いとは言わないが、それでもあいつがあんな風になったのは元はと言えば学校にも責任があったんじゃないか!!」
ランは先日の演習中に本人から本音を聞いたことでドウリキのことを憎めなくなっていた、寧ろ人間として好きになっていた、それこそ本心から友達になりたいと思えるほどに。
その為、学校側の非情ともいえる処分の内容に激しく憤慨しだしてしまった。
「ラン、話は最後まで聞けよ。…それでな、どうやら片桐先生もクビを覚悟してまで処分の軽減を申し出たらしくてな。そしたら退学どころか停学も無しで反省文と定期的な実家への家庭訪問で済んだらしいんだ。」
「……俺はあいつにやられたわけだけど、それでも全てを知ってしまったら全てを許そうと思っていたんだ。それを先生がそこまでしなければ、退学だっとは…。」
「俺も修二に同意だね、…学校側は何をしているのやら。」
ランに続いて直接的な被害者である修二とレンジまでもが学校側の判断に憤慨しだしている。
だが三人に情報を提供した創也さえも件の兄からドウリキの情報を貰った際も同様の反応をしていただけに、彼はこの三人の反応を強く咎めずにいるのだ。
そんな創也を察してかランはさらに踏み込んだ質問を創也にぶつけることにした。
「…でだ、ドウリキがこの三日間学校に登校していないのはどういう事なんだ?創也はそれも知っているんだろ?」
「ああ、兄貴の話だと『アルテミドラッグ』の入手ルートについて研究所の方で調書を取らされていたらしい。後はさっきも言ったが家庭訪問だな、あいつの実家って北陸らしいから日帰りで帰って来れないんじゃないのかな。」
「…おい、創也。家庭訪問ってもしかしてドウリキと片桐先生が泊りの旅行をしているってことか?」
「そうそう、レンジも棘のある表現をするね。だからこの三日間のドウリキのスケジュールは研究所での事情聴取とあいつの実家へのお泊り旅行って事だ。今日にでも返ってくるんじゃないのか?」
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!そうか、ドウリキは先生とお泊り旅行か!!あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
「………おい、笑い過ぎだぞ?」
創也の話に修二が大声を上げて笑っているとその行為の自重を促す声が後ろから聴こえてきた、そしてその場の全員が声のする方を振り向くと当のドウリキと片桐先生が立っていたのだ。
するとドウリキの存在に気付いた四人はそれぞれに反応を示して一斉に声を掛け始めた。
「よう、ドウリキ。ちゃんと実家で反省して来たか!?あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!先生の同伴付きで!!」
「修二…、声がデカいって。ドウリキ、久しぶりだな。お土産ある?」
「レンジは逆に軽いんじゃないのか?…ドウリキ、元気そうで何よりだ。」
「ドウリキ、少しやつれたか?あれからお前が学校に姿を現さないからランの機嫌が悪かったんだよ。…早めに帰って来てくれて助かった。」
四人が振り向いた時は迷惑そうにしながらも何処か居心地の悪そうな表情を浮かべていたドウリキだったが、四人の反応に一切の悪意も嘘も感じられ無かったからか、彼の表情は少しだけ柔らかくなっていた。
「みんな、本当にありがとう。特に修二やレンジにはあれだけのことをしたのに、…俺のことを許してくれるのか?それにランも…。」
「俺は別に気にしてないぞ?寧ろこれからはクラスメイト同士としてどんどん声を掛けるからよろしくな。ほら、座れば?学校帰りに買い食いしようって約束しただろ?」
「ラン…、ありがとうな。」
「ちょっと、ラン君!!仮にも担任の目の前で堂々と買い食いをしないでくれる?…するならせめて店舗内で飲食してよね?」
ランが演習終了時にした約束を果たすべく四人で席を囲っているハンバーガー屋の店舗前の席へ座る様にドウリキへ促してみるが、流石に片桐先生に注意を受けてしまった。
これにはドウリキも含めた生徒五人は放課後の買い食いに目を瞑ってくれた先生の顔を立てて、店内へと移動せざるを得なかった。
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