第20話アタッカーVSアタッカー②
「むうう!! そんなヒビの入ったブレードで今更どうしようと言うのだ!!」
「ブレードが一本だけだなんて誰が言ったんだよ!!」
ランは言葉の通り彼の背中から予備のブレードを取り出していた、これは彼が接近戦を克服すべく携帯していたものだった。
ランの弱点は彼の武器に与えるアルテミの効果に由来するものだ、形状変化の効果を才能とするランは武器同士の接触に不安を抱えていた。
ラン自身は沖津とのファーストコンタクトでブレードにヒビが発生したことを驚いてはいるが、本人にはそれ自体の覚悟はしていた。
だが、これはランの布石としてのブラフであり、如何にも追い詰められたかを演出する必要があったのだ。
アタッカーであるランが自信の弱点を克服するため、攻撃の『純粋な破壊力』と言う点を考慮して出した……ランの答えがそこには秘められていたからだ。
…その答えとはブレードによる徹底した中距離戦の強化だった。
ランは予備に忍ばせていたブレードにアルテミを注入することで『ブレードそのもの』の性質を変えたのだ。
その性質とは粘着力と伸縮性である。
ランはブレードを自分の体に粘着力によって固定させながら、伸縮性の反動を利用して、予備のブレードを沖津に発射させた。
だが、当然のことながらランが発射したブレードは沖津によって簡単に捌かれしまう結果となる。
しかし捌かれたはずのブレードは沖津が捌いた時点で、ランが自身の体に固定させていたブレードの粘着を解除したことで固定のポイントがランから沖津へ切り替わることとなった。
沖津の体のみに固定されたブレードはその伸縮性を活かして反動を付けて沖津の元に向かっていく。
そして沖津は再び捌くもブレードは伸びきると三度沖津に向かって戻る、ランは絶え間ない連続斬撃を実現させたのだ。
この隙を付いて本体であるランは、その連続斬撃の合間を縫って身体能力だけで接近戦を繰り広げる。
要は一人で絶え間ない時間差攻撃をしているのだ。
そして事実、その攻撃方法はランよりも格上であるはずの沖津さえも混乱させる結果を生んだ。
「ぬううう……、ここまで喰らい付かれるとは思いもしなかったぞ!」
「お褒めに預かり光栄だよ!! 中隊長殿は俺の奥の手にどうやって抗ってくれるのか、それを拝ませて貰うぞ!!」
ランの攻撃に沖津は表情を歪ませていた、だが、それと同時に表情を緩ませてもいたのだ。
……その不敵な笑みを見て、ランは背中に悪寒を感じていた。
沖津は終始余裕を感じさせる様子だったが、ここに来て余裕とはまた異なる姿勢を見せ始めていた。
「楽しいね! お前みたいに未体験の戦闘スタイルを目の当たりにすると、俺は嬉しくなってしまうんだ、それが未来ある若者だと表情が緩んでしまう!」
「……さっきまですごく冷静な大人だと思っていたけど、まさかのバトルジャンキーだとは思いもしなかったよ!!」
ランは自分の仕掛けた変則攻撃に混乱と歓喜の色を見せている沖津に対して、握りしめたブレードで最後の直接攻撃に出た。
純粋な突撃からの一閃、それは接近戦が苦手なランではあるが確実に沖津を沈めるにはこれしかないと確信していたのだ。
……だがその確信に根拠はない、現状は沖津の隙を付いて自分の全てをぶつけるだけ、これはアタッカーとしての本能と言った方が正しいだろう。
「……俺は笑っているのか? 何十人の部下の命を背言う立場にあるこの俺が!?」
「ああああああああああああああ!!」
……だが、ランが咆哮を上げながら沖津にブレードによる斬撃を加える寸でタイミングでそれは起こった。
沖津はランが全力を込めたブレードを片手で受け止めたのだ!
そして沖津はランを羽交い締めにしながら彼を盾にして、自分の元に向かって戻ってくるランの予備ブレードを防御した。
……ランが沖津に向かって投げつけたブレードは彼の腹に突き刺さる事でその動きを止めたのだ。
「……中々楽しかったよ。だがアタッカーである以上、自分自身に憂いを残すべきじゃないんだよ。」
「が……ああ…………あ。」
「「「「ラン(君)!!」」」」
「全く、粘着性の形状変化を習得しているのであれば、自分に突き刺さる前に防ぎようがあったものを……。」
「うぐううう…、先生は俺が……守……るんだ。」
「それだけ吠えるのなら心配あるまい、…だが学生の分際で予備のブレードが実践用だとはな。それだけは恐れ入ったよ。」
沖津はその場に倒れ込んで意識が朦朧としていくランへ向かって叱咤と称賛の言葉を送った。
その沖津の言葉を最後にランは育成学校の校庭で正規の防衛部隊に囲まれながら気を失うのだった。
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