五章 図書委員は書架を征す 2
○
翌日、土曜日の図書館。もっとも、ここは地上である。
「ん――――む……」
個人用の学習席で座っている。色々、考えをまとめたいところであった。
(五層隠しフロアで踏破できたのは、恐らくは全体で言えば三割程度)
ペン先を方眼ノートに落とし、荒くメモしていた脳内地図を方眼紙に写していく。
(探索はスローペースにならざるを得ない。倒しても翌日には復活するヌシが、全体で十数体以上うろついているからだ)
描いた地図へ赤点と、それを囲う図形を書いていく。大体の徘徊範囲だ。
「ううむ……」
結論としては、五層隠しフロアを探索出来る隊は相当限られる、と言わざるを得ない。他の隊には
(いや~、しかしインチキだな『亡失迷宮』。戦闘用の記述が無いことを差し引いても)
「
声は横からかかった。
「まだ途中だから渡せないけど、見るくらいなら。……今日当番なの?」
「うん、もう少ししたらお昼休みだか……はっ!」
「ちょ、ちょっと待っててね……!」
すり足にて高速移動し、ずばばばば、と熟練を思わせる手さばきで次々と返却していく。
(おおすごい)
「○○××」「◇◇△□」
何やらやりとりをした後、
「た、
「学食休みだしコンビニにでも行こうと思ってるけど」
戻ってきた
「うっ、うっか、うっかり二人ぶん作っちゃってて。一緒に食べない?」
噛み気味に言ってくる。
(うっかり二人分ってどういう状況かな)と
テンパり気味の
「うん、じゃあ、ごちそうになろう、かな」
ぱあ、と
◇
館外へと向かう二人を見送って、
「手のかかる子。さて。消えちゃったわたしのお昼、どうしよっかな」
◇
「そんなことになってるんだ、隠し通路の先って」
五月も後半になれば、外も結構暖かい。そんなわけで、二人は中庭にて弁当を広げていた。
「例えばだけど、委員長の隊なら正面突破出来る?」
「やってみないとだけど、難しいかも」
想定外の答えに、
「御高隊でもだめなの?」
「一日で復活するっていうのがね。ヌシ自体はそんなに被害も少なく倒せそうだけど、それでもケルベロスレベルのを十数体も倒したら、それなりに記述の回数を消耗しちゃうんだよね……。最後のそのでっかい蛇女を考えると……」
それだ。階層支配者の魔書生物は、その強さの想像がつかない。
「朝一で行って、半日休憩挟んで深夜行く、とかなら何とかなるかなって感じ」
ただそれは、隊員のスケジュールや開館時間的に中々難しい。
「複数隊で協力、とかは」
「今の状況じゃ中々難しいでしょうね。最後に行く隊がいいとこ取りになっちゃうわけだし」
むむむ、と
「そこまで難儀な話だったかあ……あ、甘いやつだ。おいしい」
「ありがと。今日はソレ考えるために図書館来てたの?」
「『世界の怪物退治』……」
「ほら、魔書生物でいるでしょ、伝説から出てる奴。倒し方が利用できないかなって……」
ふむ、と
「参考にならなくはないと思う。……けど、こういうのって元の――魔書になるような古い本からは結構脚色されてるからね。うっかり勘違いして行くと痛い目見るかも」
「うーん」少し皮が焦げてる焼き鯖(だがうまい)を白米とほおばる
「仮に弱点が分かったとして、そういう攻略手段を、使ってる魔書から出せるかも問題よね」
そもそも武器などは学校に持ち込むこと自体が難しい。
「あと何より。実際に相手が何かはっきり分からないとそれ以前の問題だね。
「うむむ。そうかあ……」
先輩探索委員からの意見に、
「ところでこれ、私に言ってよかったの?」
「うんまあ。どうせ月末に共有するつもりだったし」それに、と続ける。「ミカ姉が僕の不利になるようなことするわけないしね」
「そ、それはそうと
「あ、お、うん」
箸渡しは不作法なので、弁当箱を差し出す。が、
「はい」
置いてくれない。というか、位置が高い。それどころか、近い。
「あーん」
結構なマジ顔で、
(弟扱いが過ぎるんだよなあ、ミカ姉は!)
人の目が、とでも言おうとして周囲を見回すが、休日の校舎中庭は閑散としたものだ。
「ううう」
男としてどうか、という感はあるものの、
(楽しそうだし、まあいいか……)
そう、
「ほうほうほうほうほうほう」
たいへんに楽しそうな声は上から降ってきた。
「「!」」
ば、と二人が上方を振り仰ぐ。二階の廊下の窓から、にまにま顔で覗く顔がある。
「な~か~よ~し~じゃ~ん?」軽く日焼けした、金髪の三年生。
「ありゃ、
ちょっと恥ずかしいとこ見られたな、という
「あわわわっわわわああっわわわわわ」
顔真っ赤・目はぐるぐる・体全体がたがた震える
危ないので、
「スッサー、ミカっち~」
ややあって、降りてきた
「休みに校内で何してたんです?」
「休日って教室にはあんまり人いないからさ~。あれこれできんだよね」
にひい、と彼女は蠱惑的に笑う。追求しづらい。
「ううううぐぐぐぎぎぎぎぎ」
真っ赤になった
「いいじゃんいいじゃん、幼馴染年下男子と仲良くしたって何も問題ないって~。しかもそれが」ずい、と
軽くではあるが。場に緊張が走った。
「
「うん。これしんどいやつ~、って帰ったケドね。珍しいヌシ見られたのは良かったかな~」
どうにか表情を戻した(まだちょっと頬が赤い)
「
「えっアタシ? いやぁ、仕事も熱心だしいいコだとは思うケド~。でもそういうこと考えるのはもう少し趣味とか好きなタイプとか知ってからカナ~って」
「そ・う・じゃ・な・く・て!」
再び真っ赤になって、
「あっはっはっは! ミカっち落ち着きなよ~」天真爛漫、という具合の笑顔が、細まった。「スッサーの評価、ね。――アタシに利点があるかどうか、かな?」
本題に入ったな、と
「隠しフロアにゃアタシら向けの本もあったし? 別に現時点でどーこーは思わないかな~」
「
「午後から、ちょっと付き合ってもらえませんか」
◇
昼食は後に回して、読書を続けていた
「……お、戻ってきた……ん?」
だが。彼の後に続くのは見慣れた長身巨乳ポニーテール剣術女ではなく、金髪女子。
「なにゆえ?」
小首を傾げる。しばらくして、今度こそ黒いしっぽを揺らしつつ彼女の友人が現れた。
「…………………………………………」
ふらり、ふらりと歩いて、
視線を横に送れば、その口からは何か魂的なものがほわほわ出ている。ような気がした。
「南無。さて、それじゃあ私も昼ご飯に行こっかな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます