二章 図書委員は仲間を募る 7
「隠し通路! ほんとに見つかるなんて……」
「うおおすげえ! パねえっスよセンパイ!」
「これは……ワタシらも先輩から引き継いだ地図で済ませてたもンね、浅いとこは。……逆に盲点になっちゃってたってワケね」
流石の
「では、扉を「ちょい待ちよ、
扉へと手を伸ばす
「扉を開ける時は注意よ。中に魔書生物が陣取ってる時があるわ」
下手をすれば百年単位で開かれていない扉である。
「覚えておきなさい。魔書生物は記述通りの生態で動き、時には人や他の魔書生物を食いもするわ。でも、彼等はあくまで記述から現れるもの。餓死したり寿命で死ぬことはないの」
目の前にある扉の中から、先ほどまで相手していたコウモリだのネズミだのが、大量に飛び出す様子を警戒して
「そういえば、エスキュナに
「ああ、そうなんスか? 俺死んでたっスから……」
「いやあ、あれ心細かったですね……。中に魔書生物いなかったのが幸いでした」
「はい、思い出話は後々。警戒しなさいな……リーダー?」
呼びかけられ、
「んじゃ
ぐ、と
「「「…………」」」後ろで
「むっ!」
ざわり、と背後組に生まれる緊張。
「ど、どうしたんです?」
「これ、後付けね。しかも嵌め殺し」
扉をコンと叩いて、
「え?」
疑問顔で集まる他三人。
「……確かに。使われてる木材がちょっと新しいような?」
「扉の作りとか、私が隠れてた小部屋のとも違いますね、そういえば」
言い合う
「この隠し通路の仕掛け自体は、迷宮書庫本来のものね」
「つまり、どういうことすか?」
考えることを放棄して聞いてくる
「昔に、誰かがここを塞いだってことよ。隠蔽か封印か。狙いは分からないけどね」
示された可能性に
「あれー、でも地下ってそういうの出来ないんじゃ」そう驚くのはエスキュナだ。
「出来ないってのは?」
「ええとですね、ここの設備とか本って、壊れてもしばらくすると直るんですよ」
「しかもね。兵器とかで派手に壊すと迷宮書庫全体が反撃してくるの」
「大昔に軍が来た時の記録があるって、フブル先生が言ってました。すんごいけちょんけちょんにやられたって」
エスキュナが思い出すようにして、
「正直、試したくは無いわね。……大暴れしても許容されるのは、魔書を使った行動だけ。この二つは同質のものだから」
「本が作られるってのもだが、とことんまでおかしな場所だな……」
呆然とする
「けど、こうして扉が付けられてるのは?」
「見なさいな、ここ」
「元々はただの通路に扉を取り付けた後で、地下閉鎖迷宮書庫の再生でこうなっちゃったのね」
「じゃあ、開かないってコトか?」
「いえ? ブチ壊せばいーのよ。この扉は後から付けられた、地下閉架迷宮の一部ではないもの。……エスキュナチャン」
「はいはーい」呼ばれた少女がひょいっと出てきて、身を翻した。「ゴッタゴー!」
絹糸じみた長い空色の髪が踊る。スカートの下の脚線美が露わになり、常人の域を超えた威力の後ろ回し蹴りが扉を吹き飛ばした。扉は通路の奥まで吹っ飛んで行く。
「ふっ、決まりましたね……!」脚を戻し、自慢げにするエスキュナであるが。
(あ、青!)「………………」「う――ン……困った子」
目を逸らした男性陣、3人分の気まずげな気配が満ちた。
「な、何? 何なんですか?」
途端に不安がるエスキュナ――理知的な顔に似合わず、残念な娘である。
「魔書生物の気配は……無いようね」
先遣として一歩踏み込んだ
「あの部屋に隠れてたの思い出しますね~。バカヤチが起きて襲ってこないか心配だったもん」
「ゾンビじゃねえし、そうなってもテメーなんか誰が襲うか」
文句を言い言い覗く扉の先は、薄暗い通路だ。左右に書架が並んでいる。
さらに奥には梯子がかかり、地下四層への口を開けていた。通路自体も、地図の正方形通りにそこで終わりだ。
「これ、今の図書館が把握してる場所ではないんですよね?」
「そのはずよ。扉で隠されたのは恐らく、かなり前。探索委員が作られるよりも。だから」
期待を込めた予測は、エスキュナが継いだ。
「未発見図書があるかもってことですよね!」
「おお……マジかよ」
「
通路左右の書架には、他と同じくぎっしりと本が詰まっている。
「まず持って出ても消えないわよね。でも迷宮書庫の力が及んでるから、地上開架には置けないし、整備も出来ないんだけど。下手にいじると呪いをまき散らすような本もあるし」
(それは本当に本なのだろーか)
「あと、かつての管理者が付けたっていうタグが付いてるわ」
「噂の魔法使いっすか。本当にいたんすね、そんなのが」
「その辺りの時期は曖昧だけれど……それでも、本物には余さず付いてるコトは確かね」
「本のタイトルと、タグの情報。メモって持ち帰るのはリーダーの仕事なんですよせんぱい」
一通り聞いて、
「よし、んじゃ捜索開始」
そうしてしばらく。通路入口の見張りをする
「いやあ、出たわね……」「うひゃあ~……」「おお~」
「文字からすると、中東辺りの本かしら。魔書じゃないっぽいけど装幀凄いわ」
彼が持つ本の背や表紙には、複数の宝石が埋め込まれている。薄闇の中でなお、複雑な色と輝きを本の表面に浮かべていた。
言われた通りに、
(言い伝えだと作られたのは平安より前だっけ? 大昔にアラビア数字……まあ魔法がある図書館には関係ないのかもだけど)
「初探索で成果を出せたのはもうけものね。どうする? 一旦戻る?」
「この通路が今誰にも知られてねえってことは……下にもあるかもしれないんすよね、本」
そう。この梯子から通じる下層もまた、現図書探索委員からは未踏の空間ということだ。
「いく? いっちゃいます? ごったごー?」
未登録図書の発見に気分がノッてきたのか、エスキュナが
(未踏地か)
「この下の危険度、どれくらいだと思う?
「リーダーの予測を聞いておこうかしら」
一瞬、思考する。ベテランの
「ここに前いた魔書生物……ガルムは、正面から倒すなら五層でやれるくらいの実力が必要。俺達が戦った場合、
(さらには、俺らは本来の……隠されていない側の四層の敵とまだ出会っていない)
一息ついて、気持ちを落ち着けた。考えてみれば
「一旦戻る。正攻法で下に降りて、その上で――そうだな、ガルムだ。あの犬を倒せるようになったらこの梯子を降りる」
「「ええー」」下級生組が口を尖らせた。
「上出来ね。長くやれるタイプ」反対に、
下級生組がひえっと肩をすくめた。
「それでも逃げる前提でやれば、数戦は切り抜けられるかもね。でも、不意打ち一回で壊滅する可能性もある」
「仮に
「んんーざんねーん」「まーしょーがねーな……」
渋々ではあるが、
帰路。
「ねえ
「なんか方法を考えるよ。行く手段が無い、以外ならまずは検討だ」
即答する
「中々大変ね。ヤリ甲斐あるわ。――一年生達は大丈夫? うちの隊長、案外キてるわ」
「知ってるっス」「普通生き返るって知らないのに、わたし達に命賭けないよねえ」
(うっさいな)
天パ頭をがりがりやって、
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