二章 図書委員は仲間を募る 3
「アラ」
書庫への通路を歩く
「
「はいオツカレー」
背の高い眼鏡男子が明るく聞いてくる。このキャラには未だに慣れないが、親しみやすい雰囲気ではある。
「隊作るんですって?」
「え、もう広まってるんですかそれ」
「あのね、アタシ副委員長よ? それくらい聞いてるわよ」
(言われてみれば、そうか)
そう。昨日、フブルと
自らをリーダーとした隊……
「まあ、それで良かったのかもね」
とはいえ、隊員集めは隊長の仕事だ。
(一人が気楽な気もするけど、そんなことしたら……)
何しろ猛獣どころか化け物がうろついている、名前の通りの迷宮じみた空間だ。魔書とやらの力で対抗できるとはいえ、
(『死に戻り』を経験することになるな……)
先ほどエスキュナと話していたことだ。生き返るとはいえ、すすんで体験したくはない。
「隊員集めも全然ですよ。迂闊に一人で潜って死にたかないですし」
「まーね。昨日は助けられて良かったけど」
「そういえば。『死に戻り』の場合、魔書ってどうなるんですか?」
「置き去りね。というか、地下書庫がまた取り戻しちゃうわ」
「回収し直し、ってことですか」
連れて帰るのと放置で段違い、というわけだ。
本を返しに書庫へと歩く
「あ、そこそこ。作家はハ行多いからもう書庫もギュウギュウねえ……」
「救出専門の隊とか無いんですか?」
「無いわよ? 隊によってスタンスはバラバラ。単純に部活気分の子もいれば、報酬目当ての子、貴重な本を読みたいって子、果ては魔書を使った戦闘が目的の子までね。それぞれがそれぞれの目的で迷宮書庫を探索してるの。魔書自体は全体で優先的に回収し直すけど、基本的に競争関係だから。……藤谷チャンもね」
「その名前は……」
「もう聞いてたかしら? アナタの前任者ね。彼は所属してた隊に再突入する余力が無くてね」
昨日と、先ほどエスキュナの言った通りか、と
「じゃあ、今回は……」
「
「アナタはね、書類を渡し間違えたアタシらの落ち度でもあるし、まだ探索委員になってないアナタをどーしても助けるンだって、天寺チャンがまあ噛み付かンばかりの勢いでね」
(そうだったのか。ミカ姉……)
だが、
「そんな深刻に捉える話でもないわよ? なんせ最悪の事態は無いからね。こういう言い方するとアレだけど、宝探しのダンジョンゲームだとでも思って気軽にやンなさいな。……さっきも言ったよーに、探索員やるスタンスは個々人で色々。さっきの藤谷チャンにしても、他に適合する魔書が無くて、探索委員が出来なくなった。そしたら報酬のないフツーの図書委員なんて嫌だ、ってアッサリ辞めちゃったし」
本を次々棚に戻しつつ、
「報酬ってどんなのが貰えるんですか?」
「基本的にフブルチャンが提示する外部の依頼――地下レファレンスね。これに答えて地下書庫から資料持ってくるのが探索員の仕事なワケ」
そこまでは
「他にも新しい資料の発見とか、こなした数とか。成績によってボーナス出るワケよ。内申とか学食券とか、ストレートに現金とか。色々ネ。だから藤谷チャンみたいに、バイト感覚でやる子も実際多いわね。んで、依頼には」
「救助は入ってないと」
そゆコト、と
たどりつけずに。助けを待っている。たとえそれが、無かったことになるものでも。
「じゃあ、僕の隊がやります」
「へえ?」眼鏡の奥の手入れされた片眉が上がる。「何の得があって?」
「僕は、一番不真面目なタイプなんで」
とにかく探検がしたい。隅から隅まで探検し尽くして、目的の場所へと到達するのが
「あとまあ、何ヶ月か図書委員やってみて、ちょっと人に本届けるのも楽しくなってきたんで。図書館の本分でしょ、これ」
地下迷宮書庫探索においても、隊員が生きて戻れば、また探索に行ける。となれば、全体の能率も上がる寸法だ。
「――そういえば、アナタは通常業務も結構熱心にやってるみたいネ」
照れ笑いしつつ、
「ま、探索委員の基本がそんな感じだとしたら、メンバー集め苦労しそうですけどね。こっちの仕事しながら、気長にやりますよ」
「……そうね」
「え?」
「これで二人ね」肩をひょいとすくめて笑う。
「
「そろそろ飽きが来ててねー。アナタの隊の人数揃い次第抜けるわ」
「僕の隊じゃ地下三層からですよ? 先輩だともっともっと下まで行ってるんじゃ」
「そうねえ。アタシのいるとこバトル主義だから、十層後半くらい?」
「なんでまたそんな強い人が。有難いっちゃ有難いですけど」
「それはね」
ぱちり、と眼鏡の奥でウィンクまでしてみせる。
「……………………それは、どうも」
ほんの少し身の危険を感じつつ、
(地下書庫は書架で区切られた迷宮だから、最大でも五人、一箇所に六人以上いると連携が取りづらくなる上に、大人数は怪物も集めちゃう、だっけ)
そう言った理由で隊同士の連携も少ないという話だ。
となれば、
地下書庫から戻って。
(エスキュナ、どこ行ったんだろ?)
そう思いつつも仕事をする。段々下校時間も近くなり、人も少なくなってきた頃合いだ。
「ねえ、
「な……なに、ミカ姉。今集中してるんだけど」
おおお、と
「やっぱり、探索委員、やるの?」
「ええ? う、うんまあ」
折り返し地点まで到達して一息。現状完璧だ。慎重にカバー裏へ折り込んでいく。文庫はソフトカバーのため、反らないように折り込む側を下にして机に押しつけ安定させる。
「貴方の元々の趣味もだけど……本当は危ないこと、して欲しくないの。こうして一緒に委員会するだけじゃ、だめ?」
むむ、と
「いやまあほら、こっちはむしろ最悪の場合が無いって聞いたしさ」
「それはそうだけど。藤谷君のこと、聞いたんでしょう?」
「ああ……」
死に戻ったということは、つまり。
(置き去りにされたってことで)
如何に戻ってくるとはいえ、
(その孤独には覚えがあるよ。藤谷)
さらに
「
「――心配しすぎだよ、ミカ姉」
あえて、薄く笑って受け流す。しかし
「……私一緒の隊じゃないから守れないし……なんで
暗澹たるオーラを周囲に撒き始める
(つまり、救出を奨励されてないのが問題……いや、問題になってないのか。
そもそも多くの探索委員が『卒業で終わる』感覚でやっていることだ。学校としても年々入れ替わる生徒達にさせている。全体として問題は特に無い。
(ならなんでやる気になってんのか、っつーと)
(――僕が)あの日の景色が脳裏に浮かぶ。(僕がそうしたいからだな)
「あ、すごい。綺麗に出来たね」
「ぐぇぇぇ」鳥が締められたような声を喉奥から発した。
「ど、どしたの?」
「あー、分類シールと登録用バーコード……貼る前にコートしちゃったね。ま、上から貼っちゃおうか」
「ぐぎぎ」
唸る
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