五章 図書委員は書架を征す
五章 図書委員は書架を征す 1
「ぶはぁっ!?」
「まーじで服も一緒に再生するんだなあ……」
「ふう……起きたわね」
傍らで、
「「ぜんばい~~~!」」
エスキュナと
「何とか退却成功か。後任せちまって、悪かったね、
「いーのよ。アナタの地図があったから、帰りも楽なもんだったわ」
ああそうか、と
死を利用した退却。事前に作戦の内には含めてはいたが。
「まーさか、あそこまで追い込まれるとは……。ごめんなみんな。俺が見つかったせいで」
顔を上げた後輩達も含めて、
「んなことねえっすよ! そもそもセンパイいねえとあそこまで行けてねえし!」
「そーそー! それにせんぱいのおかげで逃げれたんでプラマイゼロですよ!」
口々に言ってくる二人に、
「ンふふ。そーね。迷惑かけあって、助け合うのが隊ってもンよ。ミスも取り返したんだから気にしないの」
かつての自分の基準からすれば、死を前提にした作戦など下の下のさらに下だと
だが、彼等の気遣いが今はしみる。
「……………………ありがとうな、みんな」
○
「とりあえず、
翌日の昼休み、食堂。示し合わせて
昨日は消耗が激しかったため、即時解散。
エスキュナが野菜スティックをぽりぽりやりつつ、
「あれ、探索道具があれこれ入ってるんですよね?」
「『亡失迷宮』は持ち帰れて良かったっす」
うん、と
「とりあえず入り口にあるはずの僕の鞄を回収。その後はまた探索だね。奥に行かなきゃ追いかけ回されるのは防げるはず……」
「あそこのヌシの弱い部類でも、もし戦うならアタシ達だと一匹に全リソース突っ込む羽目になるわ。その上、勝てるかどうかは不透明。徹底的に避けなきゃね」
ちっ、と
「でも、探索自体はそこまで大変でもないですよね。ザコがいないし」
エスキュナの声に
「問題は。五層の隠しフロア奥に超ヤバいのがいる。そして僕達じゃそれに対抗することはできないってこと」
「ほぼ難癖ですけどね~。ぶ~」
「で、しゃらくせえからへっぽこが死なねえように詳しい地図作ってやらあ、と」
エスキュナがぼやき、
「今のアタシ達でどうするかよねえ……アラこれおいし」
新作パスタをちゅるりとやった
エスキュナはニンジンスティックを咥えてぽりぽり、
「地道な手段としては、苦労しながらヌシを一体ずつ片付けていく」
「もういっこは、できるだけの地図を作って、これまでのモノと合わせてお茶をにごす」
ううむ、と昼食空間に妥協の空気が落ちる。
「隠しフロアも、地下四層までは出来てるわけですからね」
「やれるだけやるってのには、賛成っすね。イケるとこまで行ったら弱めのヌシ倒してみんのはどうすか?」
「とりあえずの方針はソレでいいンじゃない? まだ五層の全容となるとサッパリでしょ」
確かに、ヌシを避けて行き着いた場所が偶然ボス部屋だっただけで、空白はまだまだある。
「まだやれることがあるのに悩んでてもしょうがないね」
「今は
と、
「あっやば! 時間!」
気付けば昼休みが終わるまであと五分、といったところだ。サラダ付きランチのメインを放置していたエスキュナが慌てた。
「ふええ間に合わない~! あっこらバカヤチ! せんぱいまで! 取らないでよ~!」
◇
「渡せなかった……」
しょぼん、と。騒ぐ
「朝渡しとけって言ったのに」
隣の
「タイミングが……タイミングが……」
「剣道の試合で『機なんて作るものでしょ』とか言ってたじゃない」
「あうう……間合いが……機先が……」
「はいはい。――とはいえ、何か深刻そうだね、彼」
「ふむ」
◇
地下閉架迷宮書庫、地下五層隠しフロア。
「うっそだろおい」
一日ぶりで降りてきたそこには、入り口付近から徘徊するヌシがいた。頭が二つの巨犬だ。
「
「そのはずでしょ。だって昨日いなかったし」
ヌシが歩き去るのをやり過ごしてから、通路口に落ちている
「遠くのが偶然ここまで来てるって可能性は?」
流石に軽く汗をにじませた
「昨日は見てない奴だ。しかも」
『自己拡大』発動。壁向こうへ、さらにもう二体の反応がある。この個体は、先ほどまでの脳内地図には存在が記されていない。
「
「つ、つまり……?」恐る恐るという風に、エスキュナが聞いてくる。
「予測だけど」前置き。後輩達が唾を飲んだ。「ここのヌシ、一日で復活する……と、か」
「んな「ありですかそんなのおおおおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
四層、梯子前。
ぜいぜいと、四人が肩で息をしている。
「もがもが……」「お前マッジふざけんなよ……」
エスキュナの口を塞いだ
「図書館では静かにな、ほんと」
「念のため、少しここで時間潰しましょーか」
エスキュナの叫び声を察知したヌシが駆けてくる気配を察知したので、急いで上に昇ってきたところである。
「はあ……とはいえ、練り直ししなきゃならんのは確かだ」
がりがりと
「間違いないんすか? その、一日でっつうの」
「たぶん。
「ハイドーゾ」すぐに察して、彼は懐から数枚の紙片を渡してきた。
先日の、走り書きした五層隠しフロア地図だ。ヌシの大体の位置も点を打ってある。そこへ、
「……………………」
覗き込む一同の顔が、見事にしかめられた。
「うおー……きっつ」
一体に全力を使い果たして対抗できるかどうかというヌシが、何体もうろついている。
しかも一日で復活する。沈黙が周囲を埋めた。
「――行けるところまで行くぞ。戦闘は全避け。気付かれた時点で四層へ即撤退」
「せんぱい……」
眉をへにょっとしているエスキュナへ、
「昼も言ったろ」
「…………そうネ」
「だな!」
「は、はーい!」慌てて、わたわたとエスキュナも腰を上げた。
着いてきてくれる隊員達をありがたく思いながら、
(とはいえ諦めずに探索する、だけじゃあ最低限――隊長として、出来ることはしないとな)
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