三章 図書委員はクレームを受ける

三章 図書委員はクレームを受ける 1

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●登場人物


守砂すさたける……探索系主人公。中肉中背だけど筋肉はバキバキ。

天寺あまてら三火みか……見守り系ヒロイン。見るだけでは我慢できないけどステイ。ステーイ。

エスキュナ・コーナー……元気系後輩。パンツを見られていたことに気付いた。

大国おおぐに八治やち……舎弟系後輩。実家の手伝いもそこそこやる方。

津久澄つくづみ あさひ……助っ人系壁役先輩。口調がアレだが男女問わず人気がある。

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「目標確認でーす。易しめの地下レファレンスを片付けつつ、遭難者を助けつつ、五層までの完全な地図を作る。これ」


 図書館地上階、会議室。びし、とたけるはホワイトボードをペンで指す。


「意義なーし」「ういっす」「小目標はそんな感じよね」


 外では、どたどたという足音が聞こえてくる。別の隊が地下書庫へ向かっているのだ。


「こうして聞いてると、結構地下行く奴多いですよね。あの隠し通路も見つけられるかも」


 平坦にそんなことを言うたけるへ、津久澄つくづみは苦笑。


「なんというか、欲が無いわね。こないだのボーナスどうしたの?」


 前回持ち帰った図書はめでたく複本も無い未登録図書であった。そのため守砂すさ隊には十万円がボーナスとして渡されていた。四人で分けて二万五千円だ。学生の臨時収入としてはまずまずのものである。


「俺漫画全巻買ったっすね。不滅の刃」「わたしはゲームをその……えへへ」


 隊結成直後の臨時収入に、一年二人は気をよくしたらしい。笑顔である。


「ガチャでSSRが出ないんですよね~」


「お前課金してんのかよ……」


 スマホをいじるエスキュナである。見ればそれは、昨今人気のファンタジー風ソーシャルゲームだ。様々なキャラクターをガチャ……抽選で当てて育成し、プレイする。


「ぐへへ、今ピックアップのキャラが良いお尻してて……」


 スマホの画面にとろけ顔をするエスキュナに、大国おおぐにがちょっと引いている。


「昔、リハビリ期間に僕もやってたな、それ。やめちゃったけど」


「えーホントですか! せんぱいもまたやりましょうよう。フレンドなりましょフレンド」


 ぐいぐいと来るエスキュナであるが、


「今となっては暇が無いかなあ。イベントイベントで忙しいしさ」


「ぶー。ランキングがなー。この『UZUME』って人に勝てないんですよねー」


「キリがないでしょそンなの。ほどほどにしときなさいね」


 お母さんな津久澄つくづみが話を納め、たけるに視線を向ける。


「――僕は道具を少し。ハーネスとかロープやカラビナ、いい加減古くなってたんで」


 彼は探索にも使っている愛用のバッグを揺する。津久澄つくづみはやれやれと肩をすくめた。


「ゲームやンなさいとは言わないけど、少しは楽しむこともした方がいいンじゃないの?」


「いや、楽しんでるんですけどね」


 ホワイトボードの字を消しつつ、たける。初探索から数度の探索を経て、守砂すさ隊は三層の地図を隠し通路含め完全にし、現在は四層を攻めている。話の終わりを察して大国おおぐにが立ち上がる。


「んじゃ今日も四層っすね……しかしエス公、お前なんで体操服なんだよ」


 これに、真っ赤になって学校指定ショートパンツ姿のエスキュナがわめく。


「この前扉蹴破った時! 皆さんパンツ見えてましたよね!?」


「そりゃ、あんなに勢いよくやっちゃったら、ねえ?」


「はいはいそこまでな。いくつか簡単な四層の地下レファレンスも受けてる。行こうか」


 隊長の言葉に全員が立ち上がる。その時だ。


「あの~守砂すさ隊、ここいる?」


 会議室の戸が外から叩かれた。




 たける達は再び着席していた。先ほどと異なるのは、たけるもまた着席しており、代わりにホワイトボードの前に立つのは、学園指定のセーターを制服の上に着た少女である。


「ではプレゼンをどうぞ」


「ええ~?」


 たけるの指示に困惑する少女。やれやれと津久澄つくづみが補足する。


「説明をお願い、ってことよ。ええとアナタ、思兼おもかねチャンとこの子だっけ?」


「あ、はいそうです、思兼おもかね隊の二年、久恵くえ久子ひさこです。守砂すさ隊の人たちにお願いがあって……」


思兼おもかね?」


「書記の人ですよ。眼鏡かけて、背が少し小っちゃくてカワイイ人です。クールですけど」


 たけるの質問にエスキュナが答えた。


「あ、守砂すさ君って天寺あまてら先輩と知り合いですよね? あの人の友達ですよ。」久恵くえが補足する。「私達は基本的に浅い階層の地下レファを中心にやってるんだけど~」


 たける津久澄つくづみを見返すと、彼は頷いた。


「浅い階のレファは報酬も少ないから。案外受ける隊がいないってのも結構あるの。図書館としては重宝してるのよ、思兼おもかねチャンとこ」


 へえ、とたけるは納得する。確かに、自分が今日地下レファレンスのリストを見た時も、三~五層のものは結構残っていた。


「要は雑魚専ってこと痛ぇ!?」


 大国おおぐにがいらんことを言ってエスキュナにドつかれる。久恵くえが苦笑した。


「良く言われるけどね~。思兼おもかね先輩、そういうの気にしないから」


「とは言っても歴戦だから、深い層に行けないワケじゃないわ。まだまだ守砂すさチャン達よりは全然強いわよ?」


 たけるは疑問に首を捻る。確かに守砂すさ隊は詳細地図と遭難者救助を掲げてはいる。三火みかの友人であるという思兼おもかねならば、知っていても不思議はないが、


「……そんな隊の人が何で僕らにお願いを?」


 照れたように頬を指でぽりぽり、久恵くえが話しだす。


「いやははは~、それがね。昨日私達も四層行ってたんだけど。財布落としちゃって……定期とかはパスケースにあるから通学とかは平気だけど、すんごい今月厳しい……」


 へにょ、と久恵くえが肩と頭を落とす。


「物は人と違って排出されないからね。……ンもう、財布なんて持って入るからよ」


「その時は気付かなかったんだけど、エントランス戻ったら財布無いじゃん。思兼おもかね先輩に言っても『次潜った時ね』って」


「書板記述使い切っちゃうと、雑魚もしんどいですもんね」


 たけるも数度とはいえ地下書庫に潜ったことで、それは知っていた。


(つまりは、回数制限。魔書も疲れる)


 それは物質的な摩耗ではなく、魔書が持っている魔力ともいうべき見えない力だ。


 使用者が魔書の扱いに熟練すればするほど、使えるページも増え、長持ちする。


 魔書を地下書庫――エントランスで保管されている――に置いておけば半日ほどで回復するが、日に複数のアタックを難しくしている理由がこれだ。


 閑話休題。たけるは意識を久恵くえへと戻す。


「アタシ達、遭難者は捜すけど、落とし物は目的に入ってないわよ?」


 津久澄つくづみが困ったように言う。そんなことまで引き受けていればキリはない。


「分かってます分かってます。なんで、非公式の地下レファだと思って貰えればな~って……」視線をたけるに向けてくる「見つかったらお礼はするから。四層攻めてるんだよね? そのついでで! 勿論見つかんなかったらそれはそれでしょうがないし」


 次に彼女たちが四層に行くまで――それが何時かはまだ分からない――に見つかればよし、と言うことだろう。


「おねがい~! あと思兼おもかね先輩にはナイショで!」


 津久澄つくづみたけるを見る。お任せ、と態度が言っていた。たけるは仕方ない、と薄く笑った。


「まあ、報酬も出してくれるし、ついででいいなら」

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