二章 図書委員は仲間を募る 5
(なんかあったらも何も、潜れればの話なんだよねー)
んがー、と放課後の廊下を歩く。中々四人目が見つからない。
「うぎー……。後残ってるのは……リストリスト」
メンバーが集まらないのは
(本当にバイト目的の人多いんだな。それ以外の目的持ってる人はもう他の隊入ってるし)
たとえば、先ほどの
(占いとかも、魔書の存在知っちゃうと軽くは笑えないね)
最近は、そんな風に一分類(哲学、宗教、心理)の本を見てしまう
「やっぱ問題は方針なのかなあ……」
思わず。ぽつりとこぼした時だ。
ぶるる、と懐のスマートフォンが振動を伝えてくる。確認すると、無料通信アプリの通知だ。
『せんぱい! 有能な私がおトクな情報を持ってきましたよ!』
『そうかおつかれ』
句読点も変換もめんどくさく、スマホを懐に戻す。
「方針が間違ってるのかなあ……」
「なんで詳しく聞かないんですかー!」
どだだだ、と階段を駆け降りる音と、怒りの抗議。本体に遅れてなびく二束の空色。
「エスキュナさあ。確認できるとこにいたなら普通に声かければいいのに」
「
「やれたじゃない、今」
「もっとロマンチックに! したかったんですー! なんですかせんぱい! ロマン無し男!」
注文が多い。
異国生まれの少女が戸惑ったようにこちらを見た。
「そういうのどうでもいいから何の用?」
「うう、なんか仕草だけ優しいけど言ってることひどい……」
さめざめといじける。その上から、もう一つ声が降ってきた。
「おいエス公! お前すっ飛んで行くんじゃねえって!」
たたた、と階段を駆け降りてくる姿は、いつか見た赤色だ。
「ちょっとバカヤチ。その呼び方止めろっつったでしょ」
思い出す。地下迷宮書庫で死んでいた下級生。
「あれ? ええと、
「あっ
びし! と居住まいを正し、礼までしてくる
「ど、どうしたの急に」
「エス公に、
頭を下げたまま、
「おわわ」
「と、とりあえず図書館行こう。そうしよう」
ふたりの手を引いて、あたふた逃げる
「んで、どういう?」
図書館会議室。カウンターに断って部屋を借り、三人が座っている。
「教室でエス公から聞きました!
「二人ともクラス同じだったの?」
「夢だと思わせるって話だったけど……事情話しちゃったの?」
エスキュナに問うと、彼女はひょいと両掌を上に上げた。
「次の日いきなり問い詰められちゃいました。いや、わたし夢でしょって言いましたよ?」
「ダチと話の流れで肝試し、って地下行ったら、犬に殺されて気付いたら上でしたからね」
誤魔化しきれなかったんだな、という意思を視線に込めると、エスキュナは目をそらした。
「まあ、そっから話すようになって。事情はこいつか「こいつもやーめーてー」
一瞬睨み合う両者。あんまり仲は良くないらしい。
「えーと、そういうわけなんで、俺、図書委員になりました!」
びし、と雑な敬礼を決めてみせる
「言ったでしょせんぱい、おトクな情報って」
「いや、でもさ、なりましたって……」
「それがっスけどね」
胸ぐらを掴むジェスチャー。
「で、代わりに入った? それ、許可出たの?」
「担任とフブル先生には許可もらいました! 結構かかっちゃいましたけど!」
勢い込んで答えるエスキュナ。彼女もただ何もせず数日いたわけではなかったらしい。
「そうか……ありがとね、ふたりとも」
「でもいいの、
はっきり言って、不良だのなんだの関係なく、トラウマになっていてもおかしくはない。
「それっスよ!」
「ど、どれ?」
勢い込む後輩に、思わず仰け反る
「あのクソ犬、次会ったらタダじゃおかねえ! 絶対一発入れてやるっス」
拳と掌を打ち合わせて、闘志に燃えている。
(なんとまあ。こういう人もいるのか……)
「こんな調子で」その背後で、再び両掌を上にして、エスキュナ。「受付嬢さんに渡された魔書も適合してたみたいなので、行けるんじゃないです?」
実務上は問題無し、と
「聞いてるかも知れないけど……僕の隊だとバイト代わりにはなりにくいかもよ」
「問題ねえっス! 探検中心っスよね? あと遭難した奴助けるの。シブいっスよ」
首を傾げる。答えたのはエスキュナだ。
「彼の家、駅前のスーパー『大黒屋』ですよ」
へえ、と
「となるとあとは、
「むしろ歓迎しちゃうワ。運営側からしても、新人さンはいつでも歓迎よ」
声は入り口から。開けた戸に手を掛けて、笑みを見せるのは図書委員会副委員長。
「
「オメデト。これで三人。ワタシ入れて四人。アタックするには十分よ」
「おお!」「やったー! ゴッタゴー!」諸手を挙げて喜ぶ下級生組。
「
もう一度、今度は
「地図をちゃんとしたいんですよ」
「ふうン」「ほー」「ふえ?」
帰り道にあるハンバーガー屋で、四人が机を囲んでいる。話は自然、結成したばかりの隊の方針についてだ。
「聞いたんですけど、地図って隊ごとで管理してるんですって?」
「まあねえ。本の位置は申告しなきゃいけないし、個々人レベルで情報のやりとりはあったりするけど、詳細地図の方はね。基本自分の隊の損になるようなことは教えないし」
「それ、やりづらくねえんスか?」
「なんかさー、相手が失敗するように嘘教えるようなのも、前にいたんだって」
「うわ、なんだそりゃ。陰湿だな」
エスキュナの言葉に、
「流石にそういうのはもうペナルティ食らうけどね。ただ、他隊に情報は安々と渡さないみたいな空気、あるにはあるわね」
「前回の俺たちの件も、詳細地図の共通認識があればもっと楽だったと思うんですよね」
実際、
「つまり? 初層……地下三層から?」
「隅から隅までやります。
肩をすくめて、
「いーわよ……あらこれおいし。徹底的に探すなら、隠し通路がまだあるかもしれないしね」
これに勢い込んだのはエスキュナだ。
「そうそう! バイトにはならないかもって言っても、新しい部屋とか見つけちゃったりしたら、新規図書発見ボーナス総取りですよ総取り!」
夢見がちなお年頃である。
「そう上手いこと行くんか~?」
「可能性は無い訳じゃ無いってレベルね。三層から五層って、昔の人たちに探索され切っちゃったって認識が強くてね。精査はそこまでされてないの。するにしたって、浅い層だと大したものは出にくいから、深くまで潜ってる隊はスルーしてるし」
まあとにかく、と
「明日の放課後に最初のアタックを――って、そうだ。明日放課後当番になってる人、いる?」
「……………」「………………」そろり、と後輩二人が手を挙げた。
「明後日ね。僕の隊は緊急以外、サボりはダメ」
二人の抗議の悲鳴を聞きつつ、場を締めた。
○
騒音が周囲で鳴り響く。馴染みの無い者だと、耳をふさいで出て行ってしまうこともある。
(久し振りに来たなあ)
駅前のゲームセンター『ガロット』だ。
「なんかちょっと見ない間に景品変わっちゃったな~」
音の洪水。四角い光の数々。それらの源であるビデオゲームは趣味の範疇外ではあるが、観戦は好きだし、たまにスマホのゲームくらいはする。
雑多な娯楽の海を泳ぐ回遊魚のように、筐体の間を歩く。
「
と。横からかけられた声に
「
敷地の端、シューティングゲームコーナーに彼はいた。半身をこちらに向けている。
「こんなとこ来るんですね……」横に座って、
「前に通っていた所が潰れましてね。いやあ、ゲームセンターにも厳しいご時世です」
「こんな趣味があるとか知りませんでした。案外不良だなあ」
「はは、秘密にしておいてください。別にうちの学校では校則違反じゃありませんが」
会話しながら、
「上手いなあ」
「案外ね。地下閉架迷宮書庫探索に通じるものがあるのですよ」
「シューティングというのは基本的には記憶のゲームでしてね。敵の出現パターン、攻撃パターン、撃破の順番。それらを失敗しながら覚えて」
巨大な敵――ボスが現れた。
「後は心を落ち着けて、実行する。経験を積んでミスをなくす。迷宮書庫探索も同じことです。魔書生物は記述の存在なので成長しません。迷宮も仕組みは変わりません」
「そう言われれば、そんな気もしますけど」
「トライアンドエラーが出来ますからね。何にでも相通じる物はあるということです」
無敵回避手段であるボムも数発残し、ボスが爆炎に包まれる。
「隊員が揃ったようですね。隊の方針もユニークだ」
「耳が早いなあ」
「委員長ですので。声高には言いませんが、君には結構期待しています。エスキュナ君もね、素質は優れた物があると思ってはいたのですが」
同じ後輩を脳裏に描いて、今度は互いに苦笑する。
「新しいことをやる、となれば反発はあるでしょうね。立場的に、特別に庇ったりは出来ませんが……君には釈迦に説法、というところですかね」
「その辺は、慣れてますよ。――ご存じの通りに」
ゲームのスタッフロールが終わり、二周目のスタートを告げる音楽が鳴った。
「
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