エピローグ
エピローグ
「戻ってきたぞー」
合同隊攻略から二日後。
先月の隊長会議の時点で、攻略後の探索は
ほとんどのヌシが撃破されているため、
「いや~、ホントにヌシが復活して無くてよかった……」
「また一日で戻ってたら、流石に積みだものね。良かったわ」
「センパイの予想がバッチリだったってことスね!」
「エキドナが抱いてたっていう卵、どーしたんですか?」
「委員長の大技でエキドナ諸共吹っ飛んだらしい。結構出来てた中身が飛び散ったって」
うへー、と舌を出すエスキュナ。そんな風に探索を続け、こうして今、大部屋に辿り着いた。
「うおお……」
見上げんばかりの高さ。四方の壁は十数mの天井まで書架が続いている。先日の討伐隊との戦いによる破壊も、今は既に再生が済んでいた。
「ひゃあ~これ何冊あるの?」
歓声を上げて、エスキュナ達三人も入り込む。
「…………………………たどりついたぞ」
革の手触り。じっくりと、達成感を味わう。
隠し通路を塞いだ何者か。それから永い時間、侵入者を押し止めた封印を、
あらゆる手を使って。自分が、たどりついた。
「…………くく」
笑いが漏れる。遙か下方をチェックしている
犬歯を剥き出しにした、獣じみた笑顔。
「くくく、くくっく、くははははは――――」
笑い声に、
「はっはっは――――!! どうだあああああああ! ざまあみろ! 征服してやったぞ!!」
両の拳を突き上げて、勝利を唄う。その様子に、
「どうだ! 見たか! いくら隠そうが、無駄だ……俺は絶対にそこへ行く!」
「……ふふン。それが、アナタのもう一つの顔なのね。やっと見れたわ」
「いよっしゃ――――――――――――――――!!」
楽しい。嬉しい。要害を、障害を、守護を。乗り越えて、打ち砕き、そこへ立つ。
たどりつく。それが、
◇
「
「今頃は、二年前の自分を思い出しとるじゃろうな」
フブルが司書席で足をぷらぷらさせながら、薄笑いで言う。
「そうですか? 彼の行動からすれば、かつてからは大分軟化したのだと思っていましたが」
「そうではあるじゃろうよ。『人を助け、目的まで導く』。これが新たな楽しみとなったのは間違いなかろう。本というものが、目的へ到達することを補助するものだとも認識した」
じゃが、とフブルは付け足す。
「それで、最初の衝動が薄れるかと言えば、儂は否じゃと思う。むしろ、増す。人は誰しも、自らの根からは離れられん。何より」あかんべえをするように、彼女は自分の目を剥きだした。「奴の目は依然、獣のそれよ。邪魔する障害は、何をどうしてでも排除する。到達する。それが、あの者の持って生まれた性じゃろう」
言葉の内容を吟味するように、
「――が、先日の一件を見るに、元と新たな嗜好、上手い具合にかみ合ったようじゃ」
「確かに、そうですね。結果を見れば、上手く利用されました」
「自分だけが理解する利益のために、他の委員には別の利益を以て操る。思えばそれを、あやつは探索委員となった最初からやっておった。中々、面白い仕上がりになったのう」
「……最初から御存知の上で、彼を委員に?」
さてな、とフブルは椅子を一回転させた。
「ただ、あやつならばこれまでとは違った探索をしそうじゃと思ってな。――
「はい」
「お主もあやつを、上手く使え。もしかすれば、あやつこそがこの図書館を作りし始まりの魔法使い、その玄室を暴く一矢となるやも知れぬ」
◇
「なんかごめんな……びっくりさせて」
「いやいやまあまあ」「ちょっとだけ面くらったっスけど」
我に返った
「別にいいンじゃない? 自分の楽しみがあったって」平気な顔をしているのは
「まあそうだよな、センパイの上と下のキャラの違いすげえし」
「わたし達だいたいわかってたよね」
「嘘だろー……」さらに落ち込む
「ホラホラ、落ち込ンでないでしゃンとしなさい。これ全部チェックしなきゃなンだから」
べし、と
「そ、そうだな……よし、探索再開ー」
おー、と一同の手が挙がる。
「テンション落ち着いたね、せんぱい」「放出してスッキリしたんじゃね?」「アラヤダ、それセクハラよ
「もうそれいいから! 探すぞ!!」
◇
結果的に。得られた五層隠しフロアの戦利品は、未登録図書が十五冊、魔書が一冊。
発生した報酬は分割され、魔書は図書委員全体から適合者を求めることになる。
「まあ僕らの隊は全員駄目だったんだけど」
「なんかね、
無事、中間テストを終えた帰り道。常の下校時間より早い午後の空気を、
「そうなの? そりゃまあ、
合同隊攻略以降、
「ミカ姉もあの時はありがとね。
「いいのいいの。私達――っていうか委員長の隊は、図書館全体の貢献が重要って言ってるからね、委員長本人が」
「……今回は、無事でよかった。
「出来ればあのヘビ女さっさとやっつけて、私が駆けつけたかったんだけど!」
拳と掌を打ち付ける彼女に、
ただ。有言実行。
「――ミカ姉がもし危なくなったら、今度は僕が助けに行くよ」
「え」目を見開く
「絶対行く。僕がミカ姉を助けないとかあり得ないし」
ぼん、と。少女の顔が真っ赤に染まる。
「あ、あ、ありがと……出来るだけ浅い階で遭難するから……」
「いや出来ればしないで欲しいんだけど」
呆れる少年と、真っ赤になって俯く少女が、夕焼けを行く。
これは、奇妙な図書館と、それに挑む図書委員達の物語。
そのような経緯のため、開架書庫として地上四階・地下三階、高校の学校図書館としては破格の規模を誇る。しかし、地上部に比べても遥かに広大かつ深遠な地下『迷宮』閉架書庫の全容を知る者は皆無である。
学園図書委員会探索委員に所属する有志面々は、今日も未知の蔵書を解き明かすため、地下へと挑む――。
おわり
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『グリモアレファレンス 図書委員は書庫迷宮に挑む』
著/佐伯庸介 イラスト/花ヶ田


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