悪役令嬢の流れ弾をくらって貧乏クジを引く――俺達愉快なはみ出し者小隊

JUN

第1話 不運な人

 悪役令嬢。誰が言い出したのだろうか。実在の悪役令嬢を描いた芝居が大ヒットし、連日満席だという。

 その中に、何を隠そう、俺が登場する。その悪役令嬢の義弟、サフィール・レ・パールメント。

 元は地方の弱小貧乏貴族であるマイス家の三男だ。家を継げるわけでもなく、スペアとしては次男がおり、三男なんて全くの邪魔者。学校卒業後は、自立を求められるものだ。

 我が家も当然そうだったので、俺は将来の為、就職の為、成績だけは優秀であろうと努力して来た。その甲斐もあって成績は良かったが、それが良かったのかどうか。

 卒業前に、王家の次に権威をふるうパールメント侯爵家の主の目に留まり、養子に入る事になったのだ。

 パールメント侯爵家には男女2人の子供がいるが、どちらも、他人を陥れたり、他人の物を奪ったりなどは得意だったが、自分がまっとうに努力したり動いたりするのは、考えた事すらないだろう。

 全貴族家は、子供を最低1人、期限付きではあるが、従軍させなければならない。それで、従軍用の子供が必要になったのだ。

 昔は、「いればいい」だけの貴族用のポストについていれば済んだのだが、隣国との戦争が回避できなくなった今、前線へ行く事が求められた。

 なので、養子だ。

 とは言え、その後家を乗っ取られては困る。なので、その心配がなさそうで、ちゃんと従軍しても恥をかかない程度の人間を探したのだと思う。

 ほぼ命令での養子縁組ではあったが、俺もうちの家族も万々歳だ。うちの家族は、

「養子に行ったとしても、親子、兄弟だ。よろしくな」

と、記憶の中で一番、俺に優しかった。

 卒業式の後パールメント侯爵と養子縁組が完了し、王都フルデルのパールメント邸に俺は入った。

 広い!豪華!使用人が多い!

 緊張しすぎて、食べた事もない程豪華な夕食は味もわからなかったし、これまでとは別物の寝心地の最高級ベッドは寝付けなかったが。

 そうして迎えた初めての朝。突然皇太子からの書状が届いて、皇太子が義姉クラレスとの婚約を破棄。その後踏み込んで来た警察が色々な罪状を読み上げ、俺達は全員拘束された。

 クラレスのわがままは有名だったが、気に入らない相手の家をでっちあげた罪で潰したり、気に入ったものは宝石でも何でもプレゼントをするように強制したり、他にも色々していたらしい。

 侯爵夫婦と義兄も、横領やら強請やら罪のでっちあげやらをクラレスに加担してさんざんしていたそうだ。それで、パールメント侯爵と義兄は平民となって終身強制労働刑、夫人は平民となって教会での終身奉仕。クラレスは一番やりたい放題だったが、未成年でもあるので、平民となって教会での矯正となった。

 俺は、養子に入った翌日であるし、何も関与していない事は明らかだったので、無罪だ。

 が、ただ無罪放免とはしてもらえなかった。

 全ての資産を没収されて弁済にあてたが足りず、それを、俺がパールメント伯爵として背負う事になったのだ。

 伯爵位なんていらない、平民でいいから借金は嫌だ。そう言ったが、

「このままでは、被害者達が収まらないし」

と申し訳なさそうに言われ、国から命令されてしまった。

 あんまりだ。どうせ検挙するなら、なぜ前日にしてくれなかったのだろう。だったら俺は、まだマイスだったのに。

 実家に相談するも、

「すでに他家に出た身。もう無関係だ」

と掌返し。

 頼れるつてもなく、俺は泣く泣くパールメント伯爵家当主を名乗る事になったのだ。

 こうして俺は、『悪の花クラレス』の家族の中で唯一の、気の毒な人となってしまったのだ。

 しかし、登場場面が一瞬であまり覚えてもらえず、ただ「パールメント家の人」として罵声を浴び、恨まれ、嘲笑される事も少なくない。

 俺は無実とは言え、パールメントは恨みを買い過ぎた。

 なので俺は、戦々恐々としながら、基地に向かったのだった。



 

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