第31話 血の判定

 血の判定。それはロウガンに昔からある、もめごとを解決する最終手段だ。すなわち、「強い方が勝ち。負けた方は従う」である。

 俺達は城の中庭に場所を移し、向かい合っていた。

 俺達の背後には、一般人達がいる。そしてイリシャの背後には、強そうな奴らがいる。

「フィー隊長」

 皆が俺に心配そうな顔を向け、俺は倒れそうになるのをどうにか堪えていた。

「何でこうなった?」

「わからん。わからんが、なってしまったものは仕方がないな」

 ルイスがため息混じりにあらぬ方を見て笑い、官僚は真っ青な顔で、

「終わりだ。何て報告すればいい?いや、帰れるのか?」

とブツブツ言っている。

「あのぉ、俺達はロスウェルの人間ですから、内政には――」

「血の判定は全てに勝る!」

 イリシャが言い、俺はへこたれそうになった。

「くそ。パールメント案件だっていつも無茶ぶりしてくるけど、今回は一番酷かったな。兄弟で話を納めて来いって無理に決まってるだろ。

 それが何で血の判定?運が悪いから?俺が悪いのか?」

 肩を落とし、溜め息をついて、イリシャを見た。

「で、何を賭ける?」

 オリシャは楽しそうに笑いながら、

「お前とお前の領地!俺はこの王座だ!」

 ハッキリ言って、そんなものはいらん!

 が、勝てば、領地の話は丸く収まるな。

「1対1か?」

「そうだ!」

「そっちは、イリシャ王が?」

「当然だな!」

 俺はクルリと皆の方を見た。

「ガイ、行けるか?」

 ガイがイリシャをチラリと見ながら検討に入り、官僚は虚ろな白目を剥いていた。

「力は五分と五分だと思います。大剣を使う所も同じだし、何とかします」

 やる気だ。心強い。

「頼むぞ、ガイ」

「お願いします。あなたの肩に我が国の命運が!」

 ガイがズイッと一歩前に出ると、大剣をブンブン振っていたイリシャは、ん、という風に動きを止めた。

「当然そちらは弟殿だぞ?」

「は?」

「代理などありえん。血の判定だからな!」

 血の気が引く。

「大丈夫!フィー隊長なら勝てます!」

「マリア、その根拠は?」

 死にそうな声で訊くと、マリアは自信タップリに答えた。

「ありません!」

 全員が絶望した。

 俺だぞ。普通よりちょっとましくらいの俺だぞ?

「ああっと。因みに聞くけど、対戦方法は、チェスとか暗算とかでも?」

「面白い冗談を言うな!弟殿は!わははは!」

「あははは。やっぱりだめか。くそぉ」

 終わった。


 訓練場に場所を移し、バカみたいに人が入った中で、俺はイリシャとやり合う事になった。

「ど、どうしよう」

 ルイスがオロオロしている。

「こっそり針でも投げましょうか」

 ロタが言うが、

「バレたら激怒されるだけだ」

「コツとか、必勝法とか」

 官僚が言うが、

「そんなものがあったら、全兵士に伝達されています」

「フィー隊長。ワシの運を分けてやれればなあ」

 ゼルの気持ちはありがたいが、しょっちゅう負けてピーピー言ってるゼルの運がいいとも思えない。

「何か手はないですか。ほら、いつもの。卑怯でもいいですから」

 ガイが言うが、卑怯って……。

「隊長」

 マリアが自信ありげだ。

「何か手があるか?」

「根性です!」

「……あ、根性、ね……」

 ダメだ。期待した俺がバカだった。

 やるしかないか。もう、腕に刺させて首に突き付けたっていいか――よくない!

 中央に出る前に振り返ると、期待を込めたたくさんのロウガン国民の皆さんの目と合った。

「はああ。行って来る」

 俺は死刑台に登るような気分で、中央に足を進めた。

「やるか!弟よ!」

「楽しそうだなあ」

「楽しいだろう?」

「いや、全然?」

「おかしな冗談を言うな!わはははは!」

「本心なんだけどな。あははははは!」

 ヤケクソで笑った。

「さあ、やろうか!」

 イリシャが抜いた剣が、ギラリと光った。



 

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