第32話 義兄弟対決

 体つきからして、俺とイリシャではかなり差がある。イリシャは逞しく筋肉がついた大柄な体型で、俺はどちらかと言うと中肉中背。剣技や経験でも、俺が勝るとは到底思えない。

 クラレスが、ワインを飲みながら観戦しているのが視界に入り、イラッとした。

 そうだ。こいつのせいで、いつもいつもいつも――!

 気が逸れたのを咎めるように、イリシャが剣を振る。ブンと振り下ろされた剣を避けると、イリシャの振った剣の風で、地面の土に浅く溝が入った。

 この剣を受けたら、間違いなくこっちの剣が折れる。俺の剣は支給品の汎用のもので、刃の厚みも違う。

 そう思うと、冷や汗が伝った。

「始めようか」

 イリシャが獰猛な笑みを浮かべた。

 イリシャの攻撃を、俺はひたすら避け続けた。疲れてくれないかな、と思うが、冷静に考えると、先に疲れるのは俺だ。

 しかし、間合いも違う。どう攻め込めばいいのかわからない。

「弟よ!かかって来い!1対1なら方法にルールはない!楽しめ!」

 それを楽しめるのは戦闘民族だけだ!

 避け続ける俺に、ヤジや嘲笑の笑い声がかけられているが、それどころじゃない。かすっただけでもケガをする。

 しかし、予備動作というか、タイミングがわかって来た。剣が大きいせいか、技巧のようなものも今の所見られない。力一杯振る。それだけだ。

 ならば、手を出すチャンスがないわけではない。

 振り切ったと同時に踏み込んで斬り上げる。

 浅く胸を切ったが、返って来た大剣の風圧でこちらも頬を浅く切った。痛みはない。

「油断したな」

 イリシャはペロリと舌なめずりをした。

「油断したままでいいよ」

「そうはいかん」

 言いざま、一気に距離を詰めて来て、剣を振りまくる。

 それを、右に左に、かがみ、上体をそらして避けまくる。

「わはははは!大したもんだぞ!ここまで避けるやつは初めてだ!」

 それはあれか。これまでの奴は皆ちゃんと攻撃して行ったというだけの事か。

 俺は必死で避けまくったが、いつの間にか地面にイリシャの作ったたくさんの溝ができていて、そのわずかな溝に引っかかった。

 おっ、と泳いだ俺の目に、剣を振りかぶるイリシャが見えた。

 まずい。だめだ。

 そう思った時、胸元に手が触れ、指にそれが当たった。ピカピカの鏡のようになっている、通信機の試作品の部品だ。

 それを翳すと、日の光を反射して、イリシャの目を射る。

「うおっ」

 それで俺は体勢を立て直しつつ前へ突っ込む。

 が、片手で覆った目の向こうから、片目が俺を見ていた。

 ので、足元の地面を足で蹴り上げた。

「うわっ!?ぷっ!」

 顔に砂がかかり、目に入る。それでイリシャは完全に目を閉じ、攻撃が止まる。

 その隙に飛び込み、首に剣を突きつける――はずが、足が滑ってスライディングになった。そしてそのまま、イリシャの片足を蹴り倒す形になって、イリシャが転ぶ。

 そして俺は、「こうなるように動きました」という顔で、立ち上がって首に剣を当てた。

「俺の、勝ちだ」

 訓練場はシンと静まり返っている。

 イリシャの側が暴れ出したら取り押さえられるようにと、ルイス達は構えているのだろうと、見なくてもわかる。

 イリシャは肩を震わせ、やがて、大声で笑い出した。

「わはははは!さすが、弟よ!見事!」

 訓練場が一気に騒がしくなったが、もう知るもんか。俺はその場に座り込んだ。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る