第22話 調査

 町長は、一気に老け込んだように、がっくりと力なく椅子に座っていた。

 あれからローズを連れて商隊の男達が戻って来たが、道は踏み荒らされ、追跡は不可能と言わざるを得なかった。

 町長に聞いたところ、この集会所に、納税のための小麦や税金をまとめておくのは、毎年の事だったらしい。それを今日来る徴収官に渡し、神殿に寄付金を納めて巫女舞を舞ってもらい、秋祭りとなるらしい。

 集会所にはカギがかけられていたが、壊されていた。

「前日に、小麦と納税金のある所にピンポイントで襲撃をかけ、カギを壊して奪い取る。それも、メチャクチャ素早いスピードで」

「間違いなく、置き場所と徴収日時を知っていたんでしょうね」

「カギも、誰かが壊しておいたんじゃなくて?早すぎるんじゃないかしら」

 俺とガイとロタがヒソヒソと話し合う。

「町の人間なら、誰だって、そこに置いてあることも、今日徴収官が来る事も知ってます」

 町長が死にそうな声で答えた。

 しかしと、ゼルが腕を組む。

「何であんな時間に、あの人質になった嬢ちゃんは宿屋から出たんだ?」

「物音がして、気になって出たらしい。

 おいおい。ローズを疑うのか?」

 ルイスが立ち上がるのに、皆、唸る。

「いや、そういうわけじゃないけど……まあ、変だとは思わないか?武術の心得も無い女の子だろ?泥棒かと思って、見に行くか?宿屋を出てまで」

 皆でじいーっとルイスを見た。

「好奇心と正義感が旺盛なんだよ。確実じゃないのに皆を起こしたら悪いって思ったんだよ。優しいんだよ。たぶん」

 まあ、証拠もないし、これ以上疑いをかけるわけにもいかない。

「まあ、次の犯行で現行犯逮捕するしかないか」

「そうですね」

 俺達は切り替える事にしたが、どこかトゲが刺さったような、妙な気分だった。


 次の犯行場所と睨んだ町へ移動する。

 ルイスは、一足先に出発したローズ達商隊を見送り、ローズに連絡先のメモを渡していた。

 徴収のタイミングから次のターゲットを予測し、向かう。襲撃の間隔は3日ほど開いているので、近くの街で泊まった。

 ゼルが賭場に行ってすっからかんになったほかは、平和な夜だった。

 が、翌朝、俺達はそのニュースに驚愕する事になった。

「え!?昨日の夜に襲われた!?何で!?」

 俺が青くなったのは言うまでもない。

「フィー隊長のカンが外れやしたね」

「いや、こんなパターンは今までにない。何でだ?」

 俺だって、絶対に自信があったわけではない。ないが、パターンから外れすぎている。

「とにかく、行きましょう」

「そうだな。考えるのは後だぜフィー」

 ガイとルイスにせっつかれ、俺達は慌ただしく出立した。


 被害に遭った町は、予測通りだった。

 町に入ると、倉庫の扉が壊れて開きっぱなしになっており、住人達が深刻そうな顔を付き合わせていた。

 その中に、見知った顔を見付ける。

「あ、ローズ」

「次の行商先はここだったのか」

 前の町にいた商隊の皆がいた。

「あ、ライエン様」

 ローズとリリーの姉妹がルイスに気付いた。

「大丈夫だったか?」

「ええ。朝起きたらこの騒ぎで……」

 ローズが目を伏せる。

「ふうん。偶然にもまた遭遇したのね」

 ロタが言うと、リリーがキッとまなじりを吊り上げて言った。

「収穫の終わった町を順に回って行商していくんですもの。そう言う事もありますよ」

「そう。

 ところで、もう出立するのかしら」

「ええ。買い物どころじゃなさそうですから」

 俺はここでも、違和感を拭えなかった。

 でも、何に違和感を覚えたのか、ハッキリとせず、イライラが募るばかりだった。



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