第28話 敵地へ
俺は小隊の皆と、ロウガンへ向かっていた。
まあ、付き合わされる皆には申し訳ないと思うが、ありがたい。
「そう言えば、ゼルってロウガンだよな、名前。ロウガンと関係あるのか?」
一縷の望みをかけて訊いてみた。
するとゼルはヘッと笑った。
「んなわけないでしょうが。ワシの爺さんがロウガンからの流民でしてね、苗字が無かったもんだから、ロウガンから来たからって事で、ロウガンに。
もうちっと考えて欲しかったですぜ」
ゼルはそう言って、重い溜め息をついた。
ご落胤とか、亡命してきた王族とかだったら何とか……なりそうな気がしないな。
ゼルが高そうな服を着てふんぞり返っている所を想像したら、笑えて来た。多分皆も想像したらしく、吹き出すのを堪えていたようだ。
何となく気持ちが軽くなって、いつものバカ話をしていると、国境を越えた。
大きな街をつなぐ街道を通って首都へ向かっているのだが、どの街も、緊張しているとでもいうのだろうか。
笑みを浮かべている人は少ない。破落戸のようなやつか、制服を着た人間に限る。それ以外の住民は、ビクビクしているように見えた。
「何だ?戦争前でピリピリしてるのかな?」
馬車から見える景色にそう言うと、随行してきた官僚が首を振る。
「いいえ。ここはいつもこうですよ。
ロウガンが力が全てというお国柄なのは御存知でしょう?なので、現在街の一番強い者が領主、町長という事になります。
なので、その一派は比較的堂々としています。
しかし、いつ、不満を持ったものがその地位を脅かさないとも限らないし、そうなったら抗争です。市民は巻き込まれるでしょう。
それに、ただでさえ、何か因縁をつけられたりしても、強く無ければ言い分が通らない国です。
この国は、緊張感を切らせたら危ない国なんですよ。幼児でも感覚で知っています」
「恐ろしい国だな」
心から、この国に生まれなくて良かったと思った。
首都に近付くにつれて、ピリピリの度合いは大きくなっていく。外交官の馬車とは言え、いつか襲われるんじゃないかとすら思う。
ようやく城に着いた時、疲れ切っていたのは、しかたがないだろう。
「ここが、ロウガンの城か」
やたらと大きい。そして頑丈そうだ。そして案内された城の中は、色んな文化が混じり合っているし、上品とは言い難いが、とにかく、高そうな物がいっぱいだった。
「趣味、悪いですわね」
「強く、大きく見せる為だけの場所なんだろ」
言って、待ち構える人物も悪趣味な人物だと思ったら、眩暈がしてきそうだ。
「はああ」
「フィー、しっかりな」
「隊長、不意うちには我々が控えていますから」
ルイスとガイが言うのに、皆が頷いた。
「ありがとう。頼むよ」
俺は深呼吸して、怪物に備えた。
と、派手な装飾のついたドアが開き、俺達はその部屋に招き入れられた。
そこには、イリシャとクラレスという2匹の怪物が、舌なめずりをして俺達を待ち構えていたのだった。
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