第18話 話し合い
俺は反乱軍の後ろをついて山間の道を抜け、脇道で皆と首尾よく合流した。
「上手く行って良かった」
お互い無事だった事を喜びながらも、この後も6人しかいないのでは、流石に鎮圧は無理そうだと思う。
「増援の依頼は出したんだろ?」
「出したけど、聞いてくれるかな。この先にある、エリンザ公爵と仲のよくない侯爵の領地に入ったら、略奪の許可とか与えそうだし。その前に何とかしないと」
「ああ、離れた所にいる人と話ができるものがあればなあ」
「狼煙や光による信号だと、視認できる距離に限られるからなあ。何か方法は……」
考え始めた俺を、ガイが戻す。
「それより今は、今後の対策だ」
そうだった。
いっそ、侯爵に領兵を貸してくれと言えば、協力は得られるかもしれない。
だが、余計にお互いがヒートアップする可能性もある。
それに、国としての問題にこの侯爵だけに力を借り、恩を借りれば、それは今後よろしくない事になりかねない。
「はあ。もう、直接話し合えばいいのに」
嘆息すると、マリアがピョコンと立ち上がった。
「わかりました、隊長!」
「は?いや、何を?」
俺がわからないんだけど?
「お任せください!」
そしてマリアは、俺達があっけに取られている間に、飛び出して行った。
「あ、マリア!待って――痛てっ」
「踏むな!痛い!」
「キャア!」
小声で寄り集まって話していたのが災いした。追いかけようとした皆の槍や足が絡まり、団子になって遅れをとるという状態になって、もの凄い不安だけが募って行ったのだった。
翌朝、心配で寝不足な俺達の元に、笑顔のマリアが、公爵の騎士1名を連れて戻って来た。
「フィー隊長!エリンザ公爵が、話し合いに応じて下さるそうです!」
「は!?」
俺達は目がテンだ。
ルイスが、気付いたように呟く。
「話し合えばって、もしかして、公爵とフィーがと思ったんだ」
「え?違うのでありますか?」
皆が俺に注目する。
勿論違う。俺は、公爵と王が話し合えばいいのにと言ったんだ!俺が公爵と話し合ってどうする!というか、何を話し合うんだよ!?
しかし、マリアの「どうしよう」という顔と、騎士の「え、違うの?ふざけてるのか、お前ら」という顔を見ると、口が開いていた。
「ありがとう。じゃあ、ついて行けばいいのかな」
「は。ご案内いたします」
心は泣きそうだった。
俺は騎士に連れられて、公爵の天幕に案内された。
侯爵は体格のいい、威厳と貫禄のある男だった。金銀の宝飾に飾られた剣を腰に佩いているが、重そうだ。
「お前が、独立小隊の隊長か」
「はい。サフィール・レ・パ――」
言いかけたが、聞く気はなかったようだ。
「私の考えが正しい。そう思うだろう?私のこの決起は国の為だ。これこそが正義だ」
俺は溜め息を押し殺した。
「では、それを議会にかけて解決すればよろしいのではありませんか?」
「何?」
口ごたえされて、初めて俺に注意が向いたらしい。
「戦闘になれば、国が荒れます。他国に隙を見せる事にもなります」
ここで、公爵はニヤリとした。
が、言っておく。
「リアン王国にロスウェルが食糧支援をする事になったそうです」
公爵のこめかみに、ピクリと青筋が立った。
リアンの手助けは望めない。それどころか、リアンは今の王の側に立った。
「今なら、軍事教練で済みます」
王家にしても、内乱の芽があったと内外に広めて得は無い。
「ク……しかし!私には大義がある!」
「パールメントを助長させたという事ですか?」
「そうだ!」
「パールメントはなぜ悪いんでしたっけ」
「貴様、阿呆か!自分の利益を追求するあまり、無理を押し通し、王家をも蔑ろにしたからだ!」
「それ、今の公爵と一緒ですね」
「なに?」
騎士も身構えた。
「貴様、不敬であるぞ!」
そばで側近が怒鳴る。
「貴様、貴様」
公爵は怒りの為か動揺の為か、言葉が出ないようだ。
「だから、公爵と陛下とで話をされたらいかがですか。武力衝突する前に」
「こいつを今すぐ処罰しろ!」
「こ、この者はミシェル殿下の使者ですので」
「ええい、首を送り返せ!」
ひえええ!?
どうしようと焦る。
その時、慌ただしく兵士が駈け込んで来た。
「申し上げます!国軍がそこまでやって参りました!閣下との話し合いをと――」
「ミシェルか!?」
エリンザ公爵が立ち上がり、ジャラジャラとついた宝石がキラキラと光った。
助かったのか?首にして返される?俺は平然としながらも、ドキドキしていた。
だが、どうせ生きていても、借金返済にこき使われるだけだ。しかも、一生かかっても、絶対に返せそうにないし、悪名は永遠につきまとうしな。
そう思ったら、どっちも似たようなものな気がして来た。
「貴様、落ち着いているな。余程肝が据わっているのか。
よかろう。ビビッて命乞いでもすれば即刻切ってやろうと思ったが、胴体付きで帰してやろう」
誤解だが、解く気はない。
俺は命拾いしたらしかった。
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