第25話 恐ろしい褒美
総勢50人を超える盗賊団となった彼らを、近くの軍の駐留地へ連行し、ミシェルに連絡を取る。
その一方で、事情聴取を始めた。
手口としては、まず商隊チームが町へ行き、税金や小麦のありかを聞き出す。そして、明け方に実働部隊が来るのに合わせて、カギを壊しておく。その後到着した実働部隊が、商隊チームの誘導で目標地点へ行き、税金や小麦を素早く奪い、音を立てながら逃走していく。
音で気付いた住民達は、武装した連中が小麦などを奪って逃げていくのを目撃し、彼らが犯人だと証言する事になる。
もし追われそうになった時は、ローズを人質にとって逃げ、逃走の痕を人質を探しに出る仲間達が消して回るという事になっていたらしい。
「何でこんな事を……。
実働部隊は、食い詰めた傭兵と逃げ出した領兵みたいだけど。商隊の方は農民か商人ですよね」
商隊チームのリーダーが、俯きながら喋る。
「ここより北の、辺境にある町の農民と商人ですよ。
領主はパールメントの腰ぎんちゃくだった貴族で、騒動で左遷されて、うちみたいな貧しい領地に飛ばされて来たそうです。
でも領主一家は、贅沢に慣れているし、返り咲きたいしで、バカみたいに税率を上げて、領民は生活ができないんですよ。何しろ、元々収穫の少ない土地なのに、ほぼ全部を持って行かれるんだから」
「それは酷いな。中央に訴えなかったのか?」
「やろうとしたやつがいたんですが、遠すぎて辿り着く前に捕まり、村ごと粛清されました」
俺達は溜め息を堪えた。
「俺達は、収穫物全部を税として納めてもまだ足りないと言われて、滞納の見せしめに強制労働を命令される前にと逃げ出したんですよ。村ごと、台風に紛れて。
逃げてフラフラしていた時に騎士様達に会って、それで、組む事に」
「大変だったのはわかるよ。でも、税金を奪われた町の人が困るとは思わなかったのか?」
彼は唇を歪め、ヘッと笑った。
「そんな余裕があれば、村を逃げ出す事にはなっていませんよ」
俺達は彼らを牢に戻し、重い溜め息をついた。
「それとなく領主を調べてみようか」
「彼らの言う通りだったら?」
「罪はちょっと考慮されると思う」
それで、皆、少しホッとする。
「しかし、パールメントとその取り巻きはロクな事をしないな。
ああ、これでまた、名前を名乗る時に名乗り難くなる」
俺はガックリと肩を落とし、皆は次々と俺の肩を叩いて慰めてくれた。
その慰めが、辛い……。
その領地は、元々土地が痩せているのか気候が向いていないのか、どの畑も枯れ地のようだった。人々の顔色は悪く、痩せていない人は見かけない。家も何もかもが、暗く見える。
税金は彼らの言う通りに高すぎで、逃げ出せる人間はすでに逃げ出し、逃げ出せないまま税金滞納した人間は、奴隷扱いで、満足な食事も与えられないまま過酷な労働に従事させられているようだった。
領主は元パールメント侯爵の遠縁にあたる家柄の者で、それなりの子爵から貧乏男爵に落とされていた。
生活水準を落とせないのと、賄賂を贈ってどうにかましなところに返り咲きたいというのが重税の主な理由だが、パールメント家への貢ぎ物の代金の支払いにもアップアップしているようだ。
「確かに土が悪いなあ。これじゃあ農作物は、期待できないぜ」
土を触りながらルイスが言う。
「しかも、冬は極寒。近くの大都市からは遠い僻地。海に面していても、冬は凍り付いて使えないし、夏に海からどこかに行こうとしても、遭難が相次ぐ海域と万年氷の浮かぶ海域と巨大な魚に襲われかねない海域とがあるから、商業目的なんかで港を使うのは不可能。
確かに呪われたような領地だな」
俺も言いながら、ここの領主にされる事を全ての貴族が恐れるのも頷ける話だと納得した。
軍を引き連れて来たミシェルは、領主一家を更迭する手続きをし、俺達を執務室に呼んだ。
「盗賊団の処遇なんだけどね。まずはフィーの意見はどうかな」
「傭兵と領兵はともかく、領民については、減刑でいいんじゃないですか。罪は罪で、無罪にはできないでしょうけどね」
「そうだよね。酷すぎたもんねえ。
今回もよくやってくれたね、お疲れ様」
俺は優雅に笑うミシェルから距離を取った。
「何だよ、フィー」
「いや、嫌な予感が収まらないから」
「陛下もフィー達の小隊の事は褒めてるよ。ババを引かされながらもよくやってるって」
「ババを押し付けた自覚はあるんですね」
ミシェルはニッコリと笑ってごまかしやがった。
「領主は勿論解任の上厳罰を与えるよ。
でね、陛下もちょっとはフィーの苦労に報いてやろうって」
借金の棒引き!?
「領地を与えようって事になったんだよ」
「……へえ……いやあ……えっと……」
嬉しくない。あんまりいい予感がしない。
「現金とか、借金棒引きの方がありがたいです。ほら。俺ってまだ従軍期間残ってるし」
「代官を置けばいいし」
「いやいやいや。そう、仕事をしただけなんで」
「何で後ずさって行くのかな、フィー」
「鍛錬の時間だ!行こうか、皆!」
クルリとドアの方に向いた俺の襟首を、ローゼンが掴んで引き戻す。
「ぐえっ」
「フィーをここの領主に命じるってさ」
ルイス達が、揃って気の毒そうな顔を向けて来た。
「それ罰だよね!?ここの領主ってそういう人事だよね!?」
「そういうイメージを払拭させるのも目的でね」
「払拭できねえ!」
「まあ、クラレスの為に資金作りをしていたせいってのもあるから、パールメント案件って事で。
これでフィーも立派な辺境伯だね!おめでとう!」
「勘弁してくれえぇ!」
ローゼンですら気の毒そうな目を向けてうんうんと頷き、俺はその場でへたり込んだ。
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