第26話 問題アリの領地

 城に呼ばれて国王陛下から正式に領地を任され、ほろりと涙が出そうになった。

 決してうれし涙ではない。

 従軍期間が残っている事もあるし、領民が疲弊しきっている事もあるので、税金は、俺が従軍期間を終える年まで免除となった。

 とは言え、その後はどうしようかと、今から頭が痛い。

「国に治める税はかなり安いんだろ?」

 気楽にルイスが言うが、なぜ安いか考えろ。

「取れないのがわかっているから安いんだ」

「あ、そうだったな」

 領主館の執務室で、俺は溜め息を連発していた。

 まずは領地へ行き、準備を整えろ、という配慮だ。小隊の皆は、護衛兼サポートという名目だ。

「農産物は、領民が食べるだけで精一杯ですかね」

 ガイが思い出しながら言った。

「何か特産物はないのか?」

 ルイスが言いながらも、なかったな、という顔をしている。

「レジャー施設はどうです、フィー隊長」

 ゼルが提案する。

「レジャー施設?」

「大掛かりなカジノですよ!酒場と娼館も作って置けば、ガッポガッポ客は金を落としてくれやすぜ」

「あまりにも僻地すぎないか?」

 ルイスが言って、ガイも頷き、俺は嘆息した。

 領主館の中を見回って来たリタとマリアが戻って来て、開口一番言った。

「この前はやたらと立派だったのに、まるで別の建物みたいになってますのね」

「あはは。最低限のものだけ残して、売れるものは全部売ったからね!」

「質実剛健でいいと思います、フィー隊長!」

「客も来そうにないし、まあ、応接室と念のための客室1室さえちゃんとしていればいいだろう」

「これからフィーはここに泊まるんだろ?寝具は?」

「屋根があるだけいいじゃないか。演習中と思えば楽勝だ。テントを張る手間が省ける」

「留守中の領地の管理は誰に任せるんですか。代官を募集したのに、誰も応募してきませんでしたからね」

「近所の自治会長に持ち回りで頼もうかと思って」

「……大丈夫か?」

「どうせ今は徴税もないし、各々が生活を立て直すのが一番だろ。やる事無いだろ」

「いや、あるよ。あるだろ。きっとあるはずだぜ、フィー」

 ルイスが言うが、数年の猶予期間のうちは、生活の安定をはかればいいだろ。

 でも、その後はどうしよう。

「まあ、農地改革を相談しようと思って、ハンスに声はかけてあるからな。ありがたい事に引き受けてくれたよ」

 ハンス・エリンザ。今の陛下の甥にあたるが、農地改革に人生をかける気のいいやつだ。

「まあ、明日からは領内を回って、視察と領主就任のあいさつをするから、その間に何かないか考えるよ」

 そして俺達は、寝袋を並べて執務室で寝た。


 どこへ行っても、

「新しく領主になったサフィール・レ・パールメントです」

と言えば、警戒されるか諦めきった顔で返事をされるかがほとんどだ。

 盗賊団のメンバーも、元領民は村に戻り、傭兵や領兵もここで働く事を懲役としている。

「治安はどうなんだろう」

「どこも貧乏すぎて、襲っても無駄だとわかってるから、意外といい」

 ここを知る傭兵が案内役についていて、教えてくれた。

「泥棒さえも寄り付かないって……」

 悲しくなるな。

「作物を育てるのは向いてないらしいが、まあ、税金が免除なら、2年ほどで暮らしは楽になるでしょうよ、農家も」

「そうしたら、商人か。何かないかな」

 言いながら馬車に乗り込む。

「そう言えば、この馬車あんまり揺れないのね」

 ロタが不思議そうに言う。

「ああ。尻が割れそうになるもんなのによ。流石は、領主様の馬車ってか」

 ゼルの言葉に俺は笑い出した。

「これは俺が改造したからだよ。言っただろ。学校でそういう研究室に所属してたって」

 その途端、皆が一斉に俺を見た。

「儲け話があるじゃねえか!」

「え?こんなものが?」

「貴族だって商人だって欲しがりますぜ!」

「ここに買いに来させる。そして、泊まらせる。

 宿屋だ!娼館だ!」

「適当な土産物が何かあれば、軽い気持ちで買って帰るんじゃないですか、フィー隊長」

「では土産物の開発と宿屋の整備と改造する技術者の養成ですね!」

「何とかなる、かな?」

 落ち込んでいるばかりではなく、光が差し込み始めた。ような気がした。

 プロジェクトは動き出した。


 が、新たな問題が持ち上がるのだが、それはまだ、誰も知らない事だったのである。



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