第12話 里帰り
領地を持つ貴族でも、首都に別邸を構えている。領地を持たない貴族なら首都にのみ邸宅を構える。
そんな中で、首都にもどこにも、領地どころか自宅さえも無い貴族は、間違いなく俺一人だろう。
「嘆かわしいわね。パールメント侯爵家とあろうものがこんな古汚い建物だなんて」
クラレスは、眉をひそめて寮を見た。
軍の寮の前である。
「今は伯爵です」
俺はイライラを押さえながら訂正した。
「ほほう。鍛錬場に馬場もあるではないか!いい趣味だ!流石は我が弟!」
イリシャが嬉しそうに言うのを、俺は胃を押さえながら訂正した。
「ここは軍の寮ですから。この1室を2人で今だけ借りて使っています」
クラレスはキョトンとした。
「1室を2人で?長い部屋を区切ってるのかしら?」
「いいえ。二段ベッドと机2つとタンス2つでいっぱいいっぱいです」
クラレスがわざとらしく、眩暈をおこしたふりをした。
俺達が首都に来るのと前後して、ロウガンからイリシャとクラレスが正式な外交としてロスウェルの首都にある王家を訪ねて来たのだ。
来なくていいのに、なぜ来たのか。
一応、クラレスの持ち逃げした気球とブルーダイヤは返還したらしい。その分俺の借金が減ったのは感謝する。
が、騙されてはいけない。元々、その借金はクラレス達が作ったものだ。もっと現金も持って来て返せと言うべきだ。
「フィーも大変だなあ」
ルイスや隊の皆は、首都に来たついでに寮へ来た彼らを、俺の後ろから見ていた。
隊の皆だけではない。寮にいた皆が、見ていた。
「それで、ご用件は何でしょうかね」
「妻が実家の様子を見たいと言ったのに、実家が無かったので、弟の住むところを見ておこうと思ったまでだ」
「それはそれは。
ただここも仮初ですよ。呼ばれてフルデルに来たのでここにいますが、配属先のテントがパールメント伯爵邸という事になりますか。はっはっはっ」
ヤケクソで笑うと、なぜかイリシャも一緒になって笑い、クラレスはまたもフラッとして見せた。
「やっぱりロウガンに来たらいい」
「兵役義務期間が終了していませんし、借金を返済し終えるまで、国を出るわけには行かないので。
というわけで、おもてなしもできませんし、お引き取りください」
言うと、引率して来たミシェルがぼそりと呟いた。
「狭そうだなあ。どんな感じなんだろう」
「おい。どっちの味方だよ」
「あ、ごめんごめん」
しかし寮と言えども、他国の人間を無造作に軍の施設に入れるわけには行かない。彼らをどうにか城に帰らせる事に俺は成功した。
疲れ果てていたが。
「やっと帰ったか」
ぐったりとする俺に、ガイがお茶を淹れてくれた。
「お疲れさん」
「部屋に来られなくて良かったな。クラレスの衣裳部屋だけでも、寮の部屋の4つ分はありそうだもんな」
ルイスが言い、ロタが、
「きっと物置部屋と間違えるわね」
とマリアと笑い合う。
「ああ。前線でも何でもいいよ。どっか行きたい」
それに皆が笑った。
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