第13話 新指令
俺はまた、ミシェルに呼ばれて城へ来ていた。
「悪いね、フィー」
「だったらそっとしておいて下さい」
「南部の噂って知ってるかな」
さらりと無視して、ミシェルは話を始めた。
南部は我がロスウェルの穀倉地帯だ。そしてそこは、王の弟一家が住んでいる領地だ。
「新種の麦の交配に成功したそうですね」
連作に強く、病気に強いと聞いた。
「ああ、そうだね。
それもあるんだけど、皇太子の変更を言い出してるんだ。知らない?」
「初耳です!どうして!?」
「クラレスと婚約していたのが、パールメント家の暴走を助長したという言い分だったよ。あとは、クラレスと婚約していた事そのものに対する責任だったかな」
「言いがかりっぽいけどなあ」
思わず呟くと、ミシェルは肩を竦めて紅茶のカップを取り上げた。
「それで、私と父とに責任を取れと言って、挙兵の準備を進めているらしい」
「内乱じゃないですか!」
「だね。そこで、フィー。ちょっと行って、納めて来てくれないか」
おつかいを頼むような気軽さで言われた。
「ちょっと待って。そんな、パン買って来て、みたいに言われても」
「でも、これもパールメント案件だし」
「こじつけだ!」
「頼むね。大事になって国を割ったら、ロスウェルが付け込まれて攻め込まれるスキになるよ」
俺の次の任務が決定した。
というわけで、俺達小隊は南部のエリンザ公爵領へ向かった。
「エリンザ公爵ねえ。王位争いでは負けたけど、不承不承っていうのが見え見えだったらしいわよねえ」
ロタが、名物のアッパルパイスティックを齧りながら言った。
「キヒヒ。公爵は息子を王にして自分が摂政にでもなる気だぜ。賭けたっていいや」
ゼルが言うが、
「誰だって同じ見解だろう。賭けにならないよ」
とルイスが苦笑した。
「しかし、内乱に発展してしまえば確かに困る。
その危険性が、公爵にはわからないのか?」
ガイが苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
「それよりも、欲が勝ったのか、よほど自信があるのか」
俺は言うが、マリアは、
「つまり、公爵を討てばいいのですか。お任せください!」
と鼻息を荒くした。
「まだ!まだだって!説得してからだから!」
慌てて俺とガイが言って聞かせるのを、ルイスとロタが他人事みたいに笑って見ていた。
「それにしても、フィーは何でもかんでも押し付けられるなあ」
ルイスが呆れたように言う。
「パールメント係の一言は、魔法ですわね」
「くそ!だったらその魔法を使うミシェルは悪の魔法使いだな!?」
「フィー隊長。流石にその発言は、聞かれちゃまずいぞ」
ガイが言って、ゼルがゲラゲラ笑う。
「ああ、心配だ。パールメント係ってこじつけて、失敗したらどうするつもりだよ、あの人」
「まあまあ、フィー。先は長いんだぜ。おやつ食う?」
ルイスが差し出したチョコレートパイを口に入れると、ゼルが水筒を出す。
「へっへ。喉が渇いたんで、ワシもちょっと」
「ああーっ!それウイスキーじゃないか!流石にそれはどうかな!?」
「チッ。どうせしばらく馬車のおせわじぇねえか、フィー隊長。リラックス、リラックスですぜ」
「ならば私は筋トレしていよう」
「狭いだろ、やめろ、マリア」
収拾がつかなくなっていく。
そんな彼らを見ていて、俺は、真剣に心配するのがバカらしくなったのだった。
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