第20話 出会い

  盗賊たちは神出鬼没だと聞く。そこで俺達は、どこへ向かうかをまず決めなければならない。

「この辺で続いてるんでしょ。だからこの辺じゃないかしら」

「いや、そろそろ河岸を変えようと思ってんじゃねえのか?賭けたっていいぜ」

「でも、物理的に移動できるところでないとおかしいよな。だから、最後の現場を中心としてこの範囲内だろ」

「人数と装備と練度によって変わるしな」

 地図を囲んでああだこうだと言っているが、まとまらない。

 結局ガイが、

「まあ、こういうのは、最後は指揮官が決めるもんだ」

と丸投げして来た。

 まあ、そうなんだけど。

 俺は地図に書き込んだ、事件のあった日付と場所を辿ってみた。

「この方向に進んでるし、最後の場所がここだから、やっぱり次はこの辺りじゃないかな」

 それに、ルイスも頷いた。

「よし。じゃあそれで行くか」

 それで俺達は、出発した。

 逃げ出した食い詰めた傭兵と無職になった領兵の一部が盗賊団の構成員だ。戦闘には慣れている。移動にも。なので今回は、こちらも馬で行く。

 学校での授業でやったが、遠足感覚でちょっと楽しかった。

 しかし今回は、そんな呑気なものではない。

「いつでも武器を抜けるようにしてくださいね」

「ああ。動くたびにそんなにガチャガチャ音が鳴ったらだめです。ここにいると宣伝しているようなものです」

 ガイとロタに指摘されて荷物の積み方から直しながら準備する。

 ゼルは、スムーズに水筒が取り出せるようにというのが第一らしく、それをしつこく確認している。

 そしてその中身がアルコールだと見抜いた――というか、バレないとゼルは思っていたんだろうか――マリアに水の入った水筒に取り換えられていた。

 ようやく出発となったが、やっぱり気分は遠足だった。

 が、授業とは違うスピードや距離、本気の夜盗に襲われた事で、そんな気分は早々に吹き飛んだが。

「へえ。フィー隊長もルイス副隊長も、突然の夜盗の襲撃によく反応しましたね」

 意外そうにガイが言う。

「模擬遠征の授業で、進んでいる最中に、予告なく教官達が襲って来るんだよ。それに対処するのも評価のうちでね」

「警戒し続けて疲れた所を狙ったり、撃退直後に別のグループが来たり、えげつなかったな」

「あれ、教官達のうさばらしだぜ、きっと」

 俺とルイスは、思い出して遠い目になった。


 そうして進む事数日。やっと、予測範囲内の町に辿り着いた。中規模の町だ。

 これまで盗賊団は、素早く街に襲い掛かり、さっと仕事を済ませ、素早く去って行ったらしい。その手並みは、流石に傭兵と領兵だというところか。

 しかも、見回りの領兵がおらず、町に金品や収穫物が集まっている時を的確に狙っている。

 盗賊団は街の様子を見張って、それで襲撃のタイミングを決めているんだと思う。

「盗賊団の連中は、普段、どこでどんな風にしているんだろうな。それに、移動しているそれらしき団体も目撃されてないし」

 どうしてもその疑問が頭をよぎる。

「もっと少人数に分かれて移動してるんだろ」

 ルイスが言う。尤もだ。

「だとしたら、見た目には小さい傭兵団が、いくつも同じところに集まることになるだろ?目立たないかな、それはそれで」

 それにガイが考え込んだ。

「戦準備の噂が立ちそうですね」

「ほかの何かに偽装しているのかしら」

「もしくは、人の来ないようなところを移動してるかですね」

 ロタとマリアもそう言って首を傾げた。

「まあとにかく、今日はこの近くで野営にしよう」

 言うと、ゼルが溜め息をつく。

「はああ。すぐそこには町があって、酒も賽子もあるってのによ。

 あ。情報収集した方がよくねえかな」

 それにロタがにっこりと笑って、

「賊が来るかどうかの情報収集って何ですの?」

と訊くと、ゼルはグッと詰まり、肩を落として苦笑した。

「はいはい。チェッ」

 俺達はいつもの光景にちょっと笑って、ルイスが買い出しに町へ出かけて行き、残ったメンバーで野営の準備をすることにした。


 一般人の格好をしたルイスが帰って来たのは、たっぷりと時間が経ってからの事だった。

 しかも、鼻歌を歌う程に機嫌がいい。

「どうしたんだ、ルイス?」

「いやあ?へへへ。聞きたい?」

「まあ。でも、個人的な事なら別に」

「聞けよ、聞いてくれよ」

「ああ、もう、何?」

 一気に面倒臭くなった。

 ルイスはニタニタと笑い、言った。

「町に行ったら、行商の親子がいたんだ。美人姉妹がいてさ。妹がかわいいし、素直でいい子なんだ」

「そんなにわかるくらいの時間は無かったよな」

 俺は、ルイスが異空間にでも突入したのかと心配になった。

「そんなの見ればわかるって」

 それに、異空間の心配はせずに済んだが、別の心配が襲って来た。

「ル、ルイス?」

「最近、夜盗が出るそうなので、暗くなってからは宿から出ない方がよろしいですよ。折角のお顔にけがでもされては大変ですわって。優しいよなあ」

「……」

「グイグイ誘って来て、夜這いに来いと言う女にはあったけど、こんなのは初めてだ」

「……ルイス。お前に群がる女って……肉食ばっかり?」

 俺の呟きも、ルイスには聞こえなかったらしい。

「フィー隊長。そっとしておきましょう」

 ガイが優しく言い、俺達は、ニタニタとするルイスを放っておく事にした。

「俺、この仕事が終わったら、あの子に付き合いを申し込もうかな」

 無視、無視。

「俺、あの子と結婚するような予感がするぜ、フィー」

「俺はなんか、嫌な予感がする」

 俺はブルリと体を震わせた。


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