第3話 偵察任務
流石に、着任後すぐに突撃とかの無茶は無かった。
訓練をし、お互いに戦い方や考え方を呑み込み合い、俺とルイスは、ここというよりも、戦地そのものに慣れるようにしていく。
隣国のスリムラとは、町はずれを境にして睨み合っており、膠着状態が続いていた。戦いが無いのでケガ人は出ないが、ストレスは溜まって行くし、気は緩む。
基地の全将兵が大食堂を利用するのだが、俺達を見ると、こそこそと囁き合ったり、嘲笑を向けられたりする。完全に俺達の小隊は、舐められていた。
それでも、メンバー達は涼しい顔で食事を摂っているし、ルイスは元々楽天家だし、俺も、逮捕以来これには慣れた。
なので、嫌がらせの効果は出ていない。却って、彼らの士気や規律の低下が心配だ。
そんなある日、俺は大隊長に任務を言い渡された。
「偵察ですか」
「そうだ。この一帯を挟んで両軍が睨み合っている」
地図を指し示しながら言う。
両軍の間には森と川があり、森の向こうには湿地帯が広がっている。お互いに攻めあぐねているのは、向こうまで攻めるには物資の運搬が難しく、孤立の危険があるからだ。
しかし、スリムラがそろそろ攻勢に出そうだという分析が出ているらしい。
「了解しました!」
俺は了承し、すぐに仲間にそれを伝えた。
「オレ達が偵察?」
ガイが考えるようなそぶりを見せる。
「普通なら、もっとベテランのチームがやりそうだけどな、確かに」
俺もその点はちょっと違和感があった。しかし、上に逆らえないのが軍隊だ。殴り飛ばしたロタは凄い。
「まあ、遊ばせとくのもどうかって事じゃないのか?湿地帯とかだと、泥だらけになりそうだし」
ルイスが言うと、ゼルが嫌そうに同意した。
「泥まみれで帰って来たワシらを笑おうって魂胆だろうよ。ちぇっ」
「後ろから命令するのが貴族の基本だからな。この任務は嫌なんだろう、泥の中に行かなくてはならないから」
マリアも肩を竦める。
「まあ、行かなければいけない事には変わりがないし、行くぞ」
言い、俺達は偵察任務の準備を始めた。
森は深く、小道を外れると方向もわからなくなって出られなくなってしまうとか。魔の森、呪いの森などと呼ばれているそうだ。なので、スリムラも森を通るなら、この道を進むしかない。
俺達は警戒しながら、進んでいた。
スリムラもだが、マリアがうっかり離れて迷ってしまわないように、だ。
進んでいくと、川に出た。支流という事もあって、今は水が少なく、水かさが膝くらいまでしかないし、川幅も、随分と細くなっているようだと、周囲を見てわかった。
下流側にもう少し行った所は崖になっているそうだ。
川を水に浸かりながら渡る。
しばらく進んで、ガイが止まった。
「そろそろ暗くなります。この辺で今日は泊まりましょう」
それで俺達は、道からやや外れた所に細い糸を這わせながら入り、テントを張った。
訓練でやったが、それよりも皆の方が当然手慣れていて早い。2人用のテントを張り終えた時には、皆は周囲の警戒をしながら、夕食の支度に入っていた。
こういう時、缶詰などの行軍食を支給されるのだが、俺達に与えられたのは、水と干し肉と硬いパンだった。
説明では、
「火を使って煙が出たり、においのするものを持って行ったら、バレて偵察にならないだろう」
という事だったが、半分嫌がらせらしい。
火を使わなくてもいいものも、柔らかいパンも、あるという。
ガイは小型のコンロに火を点け、鍋に水とガチガチの干し肉、乾燥野菜を入れてスープにし、人数分のカップに注ぎ入れた。パンはそれに浸けて食べるといいそうだ。
「おお。殴ったら死にそうなパンが!」
ルイスが感動の声を上げた。
「主計課に懇意にしてる奴がいて、屑野菜を貰って、干して乾燥させてたんだ。こういう時に役に立つ」
ガイが言うのを訊いて、俺は、主計課には嫌われてはいけない、と思った。
「2人ずつ見張りをする。
そうだな。今日は念の為、フィーとルイスは別々にコンビを組んだほうがいいな」
そうして、俺とガイ、ルイスとロタ、ゼルとマリアになった。
順番をじゃんけんで決めたのだが、俺は連敗した。そうだった、忘れてた。俺はじゃんけんに弱い。
俺はガイに警戒の仕方を教わった。ルイスもそうだろう。
そして翌朝、俺達は昨夜と同じ食事を摂った後、出発した。
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