第2話 はみ出し者の問題児小隊
新兵訓練は、貴族と平民は内容が別だ。貴族は指揮官になるからだ。
勿論、体力作りや戦闘訓練も行う。しかしそれは、そこそこという程度だ。
なのに俺は、パールメントに恨みのある教官達に、走らされ、足腰が立たなくなるほど武術訓練をさせられ、教育期間中に死ぬんじゃないかと本気で思った。
しかし何とか教育課程は終了し、俺達は各々配属先へと出立して行く。
その中の、最前線の町へ向かう馬車の中に、俺達はいた。
「最初っからえらい所に配属になったなあ」
そう言って苦笑するのは、ルイス・レ・ライエン。弱小貧乏子爵の四男だ。金髪、整った顔、鍛えられた体。明るくて楽天的で、体力はある。そして、モテる。
訓練中も同期の女子に声を掛けられまくり、出入りしていた将軍の奥さんに誘われて不適切な行為に及びかけた所を将軍に見つかり、俺と同じく、睨まれる羽目になったヤツだ。
まあ、原因が原因なので、あまり同情はしていない。
だが、このルイスが、俺の副官になるらしい。
「貴族だって最前線へ行くっていう、アリバイ作りだな。ああ、貧乏クジだ」
溜め息をつくと、ルイスが笑って手を差し出した。
「まあ、仕方がない。無事に生きて帰ろうぜ。よろしく。
あ。上官になるんだから、これじゃまずいか」
「いいよ。同期の新人同士で上官もクソもないだろ。フィーでいい」
「ルイスだ」
俺達は握手した。
馬車に揺られ、お互いの事や教官の事を話し、しりとりにも飽き、昼寝もタップリとして、する事がなくなった頃、馬車はやっと停まった。
降りたが、まだ揺られているような感じがして、フラフラする。
本部は元町役場だった建物で、小さく、すすけている。そして歩いている兵は、俺達ひよっことは違い、本物だった。
そこで着任の報告をすると、まずは宿舎へ案内され、荷物を置くとすぐに、部下となるメンバーに引き合わされた。
ガイ・ロレンス准尉。大柄で黙っていると迫力のある顔だ。大剣を背に背負っている。
ロタ・ドルトイ曹長。細身で優しそうな美人だ。短剣を2本、腰に下げている。
ゼル・ロウガン二曹。ヒョロリとした感じで、詰まらなさそうな顔をしていた。腰に差しているのは、鎖鎌だろうか。
マリア・スルサ二曹。大柄で逞しい女性だ。睨みつけるような顔付きでこちらを見ていた。腰には斧と短槍が差してあった。
「隊長のサフィール・レ・パールメント中尉と、副隊長のルイス・レ・ライエン中尉だ。
よろしく頼むよ」
それで、放り出される。
何をすればいいんだろう?名前はいったし、趣味か?
短い時間で考えていたが、ゼルが詰まらなさそうに吐き捨てた。
「はああ。とうとうワシもおしまいか。パールメント侯爵の部下に回されたんじゃなあ」
慌てたのは、ガイだった。
「おい、ゼル!」
「ホントの事だろうがよ。最前線に新人貴族様が送られて来たなんてねえよ。死刑代わりに死んで来いって言ってんじゃねえのか?」
クラッときた。
「あら。確かサフィール隊長は、逮捕の前日に養子に入っただけで、無罪だわ」
ロタが小首を傾げて言うと、ゼルが嘆息する。
「なら、メチャクチャ運が悪いってこったろ?どっちみちおしまいじゃねえか」
ガックリと肩が落ちた。
ガイは言葉を探すように視線をさ迷わせ、ルイスは
「なるほど。一理ある」
と頷いている。
力強く言ったのは、マリアだった。
「ならば、巻き添えで貧乏クジを引いただけではないか。この前線の、はみ出し者を集めた小隊を任されるなど」
俺は、「ん?」とマリアを見た。
はみ出し者?
「何としても武勲を立て、無実の隊長にババを押し付ける腐った貴族どもに一泡吹かせてやろうではないか」
ああ、なんて漢らしい!姐さん!
しかし、確認しておきたいな、これは。
「ありがとう、スルサ二曹」
「マリアで結構ですよ」
「じゃあ、マリア。俺も、フィーで。
それと、俺は伯爵だから。
あと、ちょっと気になったんだが、この隊のメンバーは、何かあるんですか?」
するとロタがまず言う。
「私もロタで結構ですわ。
実は私、しつこく迫って来る上官を、殴り飛ばして後方送りにしましたの」
にっこりと笑うが、怖え!優しそうに見えて、アマゾネスか!
ガイが告げる。
「ロタはこう見えて、格闘戦のエキスパートで」
俺もルイスも、目を丸くした。
「ワシはゼル。
酒と賭け事をちいっとばかし嗜むんだが、無礼講っつったから慰問の貴族のかつらを取ってやったら、怒る怒る」
「ああ。無礼講って、本当に無礼講にしたらまずいですよね」
「そうなんだよな。だったら無礼講とか言うなよな。
で、外でやった賭けの取り立てがここまで来ちまって、それと合わせて、この小隊行きよ」
肩を竦めた。
マリアは胸を張って笑った。
「自分は、ちょっと作戦でミスをしまして。その、進軍する方向を間違って、挟撃するはずが、迷子になりました」
ガイが付け加える。
「マリアはなんと言いますか、強いし真っすぐないい兵士なんですが、ちょっとおっちょこちょいで、方向音痴なんです」
「へえ。なるほど」
そして、最期に残ったガイを見た。
「オレはガイです」
終わりか?そう思って俺もルイスも続きを待っていると、ロタが代わりに言った。
「ガイは優秀ですわよ。料理もできるし、古参兵なので、大抵の事は言えばなんとかしてくれます。
でもお人好しで、『誰か実質的なサポート役を』って事になった時、押し付けられて、引き受けたんですわ」
俺とルイスは成程と頷いたが、内容は、結構俺達、けちょんけちょんに言われているな。
「心強いです。ありがとう。それと、よろしくお願いします、ガイ」
「はい。
ではまず、オレたちに丁寧語は必要ありません。よそのやつらにも舐められます。偉そうとはいいませんが、自信がなくても自信があるように見せるのが指揮官です」
「ああ、そんなものです――あ、そんなものか。わかった。
縁あって同じ隊に所属したんだ。1人も欠ける事無く、仲良くやって行きたい。よろしく頼む」
「オレも、ルイスでいいぜ。
はみ出し結構。肩が凝らなくて万々歳。よろしく」
先行きに多少不安を感じるが、これが俺達の小隊の顔合わせだった。
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