第7話 国境の町エラン

 エラン。ロスウェルとロウガンの国境にある町だ。普段はのんびりとした酪農の盛んな地域だが、今は国境の向こうのロウガンを睨むようにして警備隊が配置され、ピリピリとしていた。

 両国を隔てるのは河で、川の両岸は切り立った崖になっており、そこにかかる1本の吊り橋が両国をつなぐ架け橋なのだが、今は封鎖されていて誰も通れない。

 ロウガン側の崖の上には草地が広がり、橋のたもとから奥の広場に向かって小道ができている。

 その橋のたもとには小屋があるが、これは検問所だろう。

 小道を挟んだ反対側にも小屋があるが、これは物置らしい。

 この物置に、今は拘束された人質達が監禁されていた。

「こう、手が届きそうな所にいるっていうのが嫌あね」

 ロタがおっとりと言った。

「橋を強行突破するわけにもいかないし、崖を下りて河を渡ろうとしても丸見えだな。

 離れたところで渡って、ここまで来て、物置小屋から人質を解放するか?」

 ルイスが橋の上流と下流を見ながら言った。

「物置小屋を襲って、それがロスウェル人だとばれたらだめだからな。そもそもそこから考えないと」

 俺が言うと、ここの警備責任者が付け加えた。

「この河は流れも急で、とても渡れません」

 困ったな。

 どうしたものかと考えながら、辺りを歩いてみる事にした。

 と、子供達が嬉しそうに茸を持っているのを見付けた。

「ん?あ、幽霊茸だ!ダメだ!」

 ガイは、慌てて止めに近付いた。

 この茸は、毒がある。食べた瞬間は非常に美味らしいが、少量で死に至る猛毒だ。

 しかも恐ろしいのはそれだけではない。なんと、棺に生えるのだ。棺の材料となる木にも生えず、ジメジメしていても生えない。なぜか、墓場にある棺に生えるのだ。

 それが、死者が仲間を呼ぶために毒茸を生やしているように思われて、余計に怖い。

「それ、毒茸だから、食べたら死ぬぞ!」

 言いながら近付くと、子供達はしまったという顔をしていた。

「7歳の試練なんだよ」

「7歳になったら、1人で納骨堂に行ってこれを取って来るんだ。取って来れないやつは弱虫なんだ」

 ああ。子供の通過儀礼か。

 棺は埋めてしまうのが一般的なのに、この辺ではそうではないのだろうか。昔は、遺体をミイラにして棺を洞窟や納骨堂に積んで礼拝したり、棺を壁に塗り込んだ地域もあったらしいが。

「へえ。じゃあ、勇気を見せたわけだな」

 マリアが面白そうな顔になり、茸を持った子は、得意そうな顔をした。

「納骨堂の一番地下の突き当りの棺を開けたらこれが生えてるんだよ」

「え。棺の中から採って来るのか?」

 俺達は全員、ちょっと引いた。

「そう!死体から、何か冷たい湿った風も吹いて来るし、すすり泣きみたいな声も聞こえるんだぜ」

 行った事のある子が得意げに言い、まだの子は、ごくりと唾を飲み込んでいる。

 聞いていた俺は、死体から湿った風というのは、その向こうに穴が開いているんだろうし、すすり泣きというのは、隙間から空気が抜ける音がそう聞こえるのだと分かったが、ははは。言うまい。

 しかしそれで俺は、気が付いた。

「納骨堂?どこにあるんだ?」

 思ったとおり、河沿いにある教会の、河寄りに建つ建物を子供達は指さした。

「フフフ。フハハハ!」

 笑い出してしまった俺から、全員が距離を取った。

「お、おい?フィー?」

「その棺の場所まで、案内してもらえるか」

 ルイスが、「正気か?」という顔をしていたが、俺はニヤニヤと笑って言った。

「さあ、肝試しと行こうぜ」

 俺達はゾロゾロと、教会へと歩いて行った。




 

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