第8話 地下納骨堂
階段も廊下も、細く、暗い。そして、足音が不気味に響く。ランタンの灯りが作る影はユラユラと揺れ、左右にびっしりと並んだ頭蓋骨は、昏い眼窩を無言でこちらに向け、まるで、じっと見られているように感じる。
ひたすら進み、下りる。
と、ようやく一番先へと到達した。
「あれだよ」
囁くように子供が言い、俺達はそれの前に立った。
突き当りの壁に立てかけるようにして、古い棺が立てられている。100年は前のものだろうか。板は朽ちかけており、蓋は完全に閉まっていない。
ガイがその蓋を開く。
正面に突っ立っている形になるミイラと対面し、洩れそうになった声を、ルイスが堪えたのがわかる。子供達は、足元に生えている幽霊茸だけを見るようにしているらしい。
そして確かに、冷たく湿った風が吹きつけて来、ミイラの方から、か細い女の声のようなものが聞こえる。
俺は仮説を確かめる為、ミイラに手をかけた。
「おいおいおい!?」
「に、兄ちゃん、何するの!?呪われるよ!?」
「大丈夫だ。クラレスの呪いが今は一番怖いしな」
後ずさりながらも目を離せない子供達を尻目に、俺はミイラを棺から出し、通路に横たえた。
そして、空になった――幽霊茸だけはあるが――棺の底板部分を見た。
「やっぱりな」
見事に穴が開き、その向こうの土壁は崩れ、その崩れた土壁の向こうに、穴が見えた。
「な、なんだよ。お札か?骨か?隠し財宝か?」
ゼルよ……。
「よく見ろ」
「見たくない!」
「穴だ。おそらく河の下を通って向こうに続いてるぞ」
大人が四つん這いで進めるくらいの大きさだ。
「カワモグラか」
ガイが気付いたように言った。
カワモグラは子牛くらいの大きさのある水辺に住む動物なのだが、地中に縦横無尽にトンネルを掘る習性があるのだ。そのせいで、川辺などは定期的に点検しないと、いきなり岸が崩れるという危険がある事が知られている。
「行ってみよう」
「ちょっと待って。どこに続いてるかわからないわよ」
ロタが止める。
「この方向はロウガンだろ。まあ、行ってダメなら戻って来る」
「フィーやルイスに行かせるわけには――」
「いや、ガイやマリアだときついよ」
言うと、ゼルが顔をしかめた。
「ワシも勘弁してくれよ。穴倉は営倉を思い出してダメなんだよ」
ああ。酒と賭博で入ったばかりだったな。
俺とルイスで穴を辿る事にし、子供達には厳しく口止めをした上で、ガイ達に、警備隊長と交渉係とに説明をしておいてもらう事にした。
「行くか」
そして、俺達は棺の中に入った。
暗くて狭い。だが、空気は問題ないようだ。
どこへ向かっているのかわからないまま、ルイスが先に、俺が後から、とにかく進む。
かなり進んだ頃、トンネルはなだらかな上りになり、そして、行く手を塞ぐように石が現れた。それをルイスが押しのけると、うっすらと光が差す。
「ここはどこだ?」
穴から頭をそうっと出し、ルイスがキョロキョロとしていたが、「あ」と言って、穴から這い出して行った。そして、顔を覗かせて言う。
「ここ、物置小屋の真下だぞ」
俺達は地面に這いつくばりながら、すぐ上にある床板を見上げた。それは地面から30センチほど高い所に床が来るように作ってあり、僅かな隙間から周囲を見回すと、確かに、位置関係からしてあの小屋らしいとわかった。
「あとは、本当にここに劇団員達が集められているかどうか」
どうやって確認しようかと、俺達は腕を組んで考え込んだ。
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