第21話 寒い、そして、寂しい


楽しい時間はあっという間である。

母と妹がいる二日間は気がつくと終わりを迎えようとしていた。


「それではみなさん、お世話になりました。年末もここで過ごしたかったけど、仕事があるからね」


「私も留学のためにアルバイトをやりまくります!」


「年末はうちは忙しいから、一部屋も貸すことはできないよ」


まだ経験はしていないが、年末年始は例年忙しいらしい。

今年も予約でいっぱいとなっている。


「ではお母様。タケルを頼みますね」


「あんたに言われなくともしっかり育てますよ。ミレイもまたいらっしゃいね」


「ではまたね。タケル」


「うん。また」


二日間の間、家族3人で話すことは話した。

もう話すことはないくらい会話をしたであろう。


「ありがとうございました・・・」


いつもの癖で咄嗟に口から出て、頭を下げていた。

頭をゆっくりと上げると玄関の扉は閉まっており、2人の背中が見えた。


「さあ、みなさん。今日も頑張りますよ」


「頑張りましょう!」


賑やかな2人がいたため、少し旅館が静かになったような気がした

。寂しさという気持ちが湧く前にワタシも口を開く。


「さて頑張るぞい」


—————


「疲れた〜」


今日の仕事を終えて、自分の部屋に戻った。今日も満室の旅館。

せわしなく動き回った。明日は少し旅館も落ち着くみたいである。

それでも慣れてきた早起きの癖を崩さないためにも、今日も早く布団に入る。


「あ〜あ〜あ〜〜」

暗闇の中でしゃべってみる。でもワタシの声だけが響く。

そのことが少し寂しかった。

「あれ?これなんか経験したことある気がする」と思いながら目を閉じる。


・・・思い出した。一人暮らしを始めた大学生活の時だ。

「一人暮らし、よっしゃ〜」って思っていたが、一週間ぐらいは寂しくて慣れなかった。こういう瞬間に”家族”っていいなって改めて思う。


—————


「おはようございます。サイトウおばちゃん」


「おはようって、タケちゃん。目が腫れているじゃない?」


「えっ、そうですか?」


鏡を見てみる。昨晩の布団の中で思い出に浸り泣いてしまっていた。

想像以上に泣いていたのであろう。かなり腫れている。


「うっ、さぶい・・・」


鏡を見た後に意味はないが、顔を冷たい水で濡らし、いつもの外掃除へ向かった。冬の寒さは気候によるものもあるが、寂しさからくる寒さもあるのかもしれないと、ワタシらしくないことを思いながら、掃除を終えた。

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