第14話 デリシャスおせんべい
「女将、少し散歩してきます」
女将のお昼御飯を食べ終えても、まだ午後からの仕事までは時間があったため、気分転換も兼ねて外に出ることにした。自身の部屋に戻り、着物から着替えて、裏口へ向かう。
「いってきま、、あっそうか。まだ帰ってきていないのか」
外出したおじいちゃんたちはまだ帰ってきていなかった。今日は買い物の用事はないが、いつものように湯けむりを目指し、散歩することにした。
湯けむりを目指して歩くと、当然いつもの坂道に着く。ふと思いついて、今日はせんぺいを売っているお店に向かうことにした。ワタシと同年代の息子を持つ夫婦が経営しているお店だ。
店名は、、、
「デリシャスおせんべい・・・フッ」
このセンスが謎である。まだ「おいしいおせんべい」の方が良いのではないかと思ってしまう。みーちゃん(奥さん)曰く、「外国の方が寄りやすくなるでしょ」とのことだが、カタカナでは外国の方は読めないだろうと思っている。
「みーちゃん、こんにちは」
「あら〜タケル君、いらっしゃい」
ここ「デリシャスおせんべい」では、お土産用のせんべいをメインとして売っているが、イートインコーナーも備えており、その場でせんべいを味わうことができ、お茶もサービスで提供されている。
「温泉せんべいお願いします」
「は〜い」
せんべいとお茶を持ち、イートインコーナーで、みーちゃんと会話をする。まるでおばちゃんたちの井戸端会議だ。
「でも本当に珍しいわね。あなたの年齢だと外に行く子が多いでしょ。普通はこんな田舎にいないわよ」
「そうですね。ワタシ、ここ好きなんだと思います。ほら、最近言われている。好きなことを仕事にって感じかな。私は別に地位も名誉もいらないから」
「ホントに珍しい子だわ。旅館が落ち着いたら、この店の跡継ぎも頼むわよ」
跡継ぎとなる予定のみーちゃんの息子は都会の大学に通っている。”せんべい”の勉強ではなく、”アート”の勉強だ。
「いずれ、ここで作品でもつくりながら、せんべいをやってくれますよ」
「いやいや、無理よ。あの子のつくるのはデリシャスじゃないわ」
このように親や先代が築いてきたものを引き継ぐ子は一体どのくらいいるのだろうか。引き継ぐことが必ずしも正しいとは思わないが、ワタシは違うかたちでもいいので、続けて欲しいと思ってしまう。
「ごちそうさまでした!」
「また、いらっしゃいね」
店を出ると、カメラを首にかけた男性が話しかけてきた。
「こんにちは〜。突然申し訳ないです。この辺でおすすめのもの、そうだな〜。温泉とか、おいしいものとかってありますか?」
「ここのせんべいは人気ですよ〜。ぜひ」
「あっそうでしたか。ありがとうございます」
「あと、オススメの温泉は・・・」
次いでに自身の得意分野でもある温泉についても教えてあげた。
「ありがとうございます。ぜひ行ってみますね」
「はい、楽しんでくださいね!」
旅館に戻っていると、見たことある背中を見つけた。あの2人だ。
「おじいちゃん!ケンさん!」
「オス。女将の料理は美味しかっただろ?」
「うん!とってもおいしかったよ!でもなんで、おじいちゃんは、女将に料理の仕方教えないの?」
「んー、わしより上手くなったら困るじゃろ。だから教えてないんじゃ」
優しいおじちゃんにも、負けず嫌いな一面があるようだ。
「よし戻りましょう。今日の晩御飯も女将に頼んでみます!」
「いや、俺が作る!」
「なんで〜、女将喜ぶよ〜」
女将の話題で会話を交わしていると、いつの間にか旅館に着いていた。
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