第3話 忙しい朝の時間

「さて今日もみなさんよろしくお願いします」

この休憩室での”朝食の時間”が会社で言う”朝礼”みたいになっている。


「女将さん、今日も満室ですか?」


「はい。本日も満室です」


8月は夏休みやお盆休みが影響して、ほぼ毎日お客様がいらっしゃる。


「休みがない時期があるから、覚悟しなさいよ〜。あんた。」母が何度も言っていたことがこの時期になって実感できる。


「タケちゃんもかなり疲れてるでしょ?」


「いえいえ、サイトウおばちゃんたちがこんなに元気なのにワタシが疲れてるとは言えないよ」


「タケにはまだまだ覚えてるもらうことがいっぱいあるからね」


「やってやりますよ!女将!」


「いつまで続くかな。タケ坊」


「ケンさんこそ、いつ転職するの?」


ケンさんもワタシと同時期に入り、調理室で働き始めた。元々都会のレストランで働いていたらしいが、方向性が違うと感じ、ここ地元に戻ってきて、旅館を探したみたいだ。


年齢はワタシよりも上になるが、一番近く、話しやすい関係である。


「はい。そこまでにして、そろそろ始めますよ」


優しいおじいちゃんが言って、椅子から立ち上がった。


お客様が朝食を終えるとすぐに片付けを開始する。

「よし行くわよ。タケちゃん」


サイトウおばちゃんの掛け声と共に3人で広間に向かった。


片付けと言うと簡単に聞こえるが、これが中々大変なのだ。


「タケちゃん。重いもの頼むわ〜」


「は〜い」


各机の上に並べられた多くの食器を重ねて、

大きなトレーに乗せて、調理室に持っていく。


働き始めた時は、次の日に筋肉痛になっていたが、半年も経つと、かなり慣れてきた。


「これお願いします!!」


「はいよ」


調理室に持っていた食器をおじいちゃんたちが、一気に洗い物をする。


ワタシはこの”食器運び”を繰り返す。


「ふ〜〜」


片付けを一段落終えた。

が、休憩をしている暇はない。


時計を見ると 10:00 を示している。 

お客様がチェックアウトし、出発される時間だ。


スタッフ全員で玄関に向かう。


「良い旅館でした。女将。また来年も来ますね」


「ゴトウ様いつもありがとうございます。またお待ちしております」


出発されるお客様のほとんどがこのように会話をされる。

これは”ホテル”では味わえない”旅館”の良さなのかもしれない。


「ありがとうございました!」


本日のお客様全員を送り出した。


さてここからは”戦争”だ。


戦争とは、、、

部屋の掃除タイムのことである。


「オハヨウ!」


この時間のみ、アルバイトのスタッフを何名か雇っている。


今日は地元の大学の留学生が来た。


「おはよう!今日もよろしく、ジャック」


サイトウコンビとワタシ、そしてジャック。

掃除機やバケツ、ぞうきんなどそれぞれが”武器”を持ち、いざ戦場へ向かう。

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