第11話 イタイ旅館


「ん〜、涼しい〜」


季節は秋となり、朝の掃除の時間はかなり涼しく気持ちの良い気候に変わった。読書の秋、スポーツの秋、食欲の秋、秋は何かを行うには最適の季節だ。旅館も夏ほど忙しくはなく、最近は落ち着いた日々を送ることができている。


「何かはじめようかな〜」


「英語教室でも行ってみたら?タケちゃん」


「いいですね。英語がしゃべれるようになるとお客さんも増えますよ〜」


「ジャックに教わればいいんじゃないすか?」


「ケンちゃん、それだ」


朝食の会話もこのように和やかな雰囲気だ。このゆるんだ雰囲気をしっかりと締め直すのが女将の役割だ。


「はい、みなさん。今日もよろしくお願いしますよ。本日は8名のお客様で3部屋です」


「さて、では片付けを始めましょう」


いつものようにおじいちゃんの言葉によって、みんなが動き出し、サイトウコンビとワタシは広間に向かった。


「これお願いします!」


「はいよ」


食器を運ぶ作業もかなり早くなってきている。最近は両腕に筋肉がつき、少し太くなってきた気がする。この着物に太い腕はあまり似合わないなと思い、これ以上太くならないことを願っている。


昨日泊まられたお客様もあまり多くはなかったため、早い段階で朝食の片付けを終え、お見送りに向かう。


「それでは女将、お世話になりました。とても良い旅館でした」


「ありがとうございます。お気をつけて」


そのような会話をした後に、お客様がワタシの方を少し見ている。

透かさずワタシは笑顔で答えた。


「ありがとうございました!」


本日のお客様も全員送り出し、戦場へ向かう準備を始める。


「おはようございます!」


「おはよう、ジャック」


ジャックの日本語もかなり上達してきた。部屋の掃除が終わった後にでも英語の件を相談することにしよう。


「ア〜、タケさん。コレ見てください」


「ん、何?」


ジャックがスマホの画面をワタシに見せてくれた。どうやら

うちの旅館のレビューが書かれているサイトのようだ。


—————

女性(50代)

『温泉も食事もとても良かったです。また来年も行く予定です』


男性(30代)

『温泉気持ちよかったです。でも一点気になったのが、この旅館にはオカマ?がいた気がする笑』


女性(30代)

『上記男性のレビューのように触れなかったけど、確かにその点が気になりました。雰囲気もとてもよかったけど、そこだけ違和感です』


男性(60代)

『とても良い旅館でした』


男性(40代)

『食事・温泉最高でした。ただスタッフの一人がオネエなのはなぜ?ここはイタヤではなく、イタイ旅館なのかなと思いました笑』


・・・


—————


ワタシのことで間違いないだろう。先程のお客様がワタシを見ていたのはそのことだったのかもしれない。


落ち着いていた秋の季節もまた何かが起こりそうな気がする。

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