第13話 女将の気遣い


「ヨシ。よし。ヨシ」


「よし。よし。よし。ジャック、そっちはオーケー?」


「OK!」


初めてのジャックとの戦場だが、秋の気候と掃除を行う部屋数が少ないため、スムーズに終えることができた。


「ジャックもかなりできるようになってきたね」


「もう僕もココのスタッフですね」


「大学卒業したら、ここに就職だね!」


「ン〜考えときます!」


ジャックと別れ、受付のお気に入りのソファに向かう。

サイトウコンビも掃除を終えて、そこで休憩を行っていたようだ。


「お疲れ様。タケちゃん」


「お疲れさまです」


「やっぱりこの季節はいいわね。落ち着くわね〜」


サイトウコンビとワタシの3人でボ〜〜としていると、心なしか、少しうれしそうにしている女将がこちらに向かってきた。


「みなさん、今日は私がお昼御飯を作りますので、ぜひ食べて行ってください」


「は〜い」


すぐにワタシは返答をしたが、サイトウコンビは2人とも苦笑いをしている。


「もうそろそろできますので、休憩室でみなさんで召し上がりましょう」


女将が調理室に向かった後、サイトウコンビに苦笑いの理由を聞いてみた。


「どうしたんですか?」


「女将の料理はスゴイのよ」


「なにがですか?」


「食べてからのお楽しみ」


3人で休憩室へ向かっていると、おじいちゃんとケンさんがどこかに行こうとしていた。


「ちょっと買い物に行ってきます」


「私が行きますよ」


「いいの。いいの。タケ坊。今日は買い物に行きたい気分なんだよ」


「そうですか。いってらっしゃい!」


何かから逃げるように2人は買い物へ向かっていった。

休憩室に着くと、女将が料理を机の上に並べている最中であった。

女将が作った料理は”オムライス”のようだ。


「ん?見た目はあまり悪くないですよ・・・」


ひそひそとサイトウコンビに話す。


「まあ食べてみたらわかるわよ・・・」


料理を4人分並び終えた女将が席につき、ワタシ達も手を洗い、それぞれの席につく。


「さあ、さあみなさんでいただきましょう」


「いただきます!」


女将の料理にみんなで一斉に口を付ける。

と同時に自分の舌がパニックを起こしていることに気づいた。


ん!?なんだこの味?醤油?塩?砂糖?お酢?

様々な調味料の味がする。


「女将、おいしいです・・・」


「ありがとうございます。タケはどう?」


「スゴイです!」


思わずスゴイと言ってしまった。サイトウコンビが少し笑っているように見える。思い返せば、女将の作った料理は今まで食べたことがなかった。女将にもできないことがあることに驚いたと同時に少し嬉しい気持ちになっている。母の料理の腕前は、おばあちゃんの遺伝だったのかといまさら合点がいった。サイトウコンビは早くこの場を去りたいのか、早々とオムライスを口に運んでいる。


「みなさん、今日は特別にもう一品つくりましたので、持ってきますね」


「はい・・・ぜひいただきます・・・」


女将の料理は確かにスゴかった。ありとあらゆる調味料を入れたのであろう。味はおいしいと言えるのものではなかったが、午前の出来事を気遣った女将なりの行動だったのかもしれないと少し元気が出てきた。


「女将!おいしいです。次の料理をお願いします!」


「次持ってくるわね」


いつも厳しい女将が明らかにうれしそうにしている。サイトウコンビも女将の料理に、今までに何度か付き合ってきたのであろう。女将が次の料理を取りに行っている間、3人は苦笑いをして顔を見合わせていた。

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