第24話 毎年、毎年、おこなっていること


受付のトビラから見える小さなフレームは、”桜”を写している。

朝の部屋掃除を終えたワタシとジャックは、

ソファにうなだれるように座り、その景色に魅了されていた。


「キレイですネ〜」


「花見にでも行きたいね〜」


「美しいものには棘がある」ではないが、少し時間が経つと、

散った花びらの掃除をしなくてはならない。

秋~冬の季節も紅葉に魅了された後に、その落ち葉には悩まされたものである。


「タケ、ジャック、ちょっといらっしゃい」


「何ですか女将?」


「タケさん、私たちナニカしましたか?」


「いや・・・してないと思うよ」


確かにジャックが呼ばれるのは珍しい。

女将に言われて休憩室に向かうと、ワタシたち2人以外の全員は集まっていた。

何か深刻なこともあったのであろうか。


「今年もこの時期が来たか・・・」


「そうですね・・・」


おじいちゃんとサイトウおばちゃんが、頭を抱えている。

ワタシ、ジャック、ケンさんの3人は、何がなんだか理解が追いついていない。


「今年も何をするかを考えないといけません・・・」


「・・・女将、え〜と何の話ですか???」


頭に?マークが出ている3人の代表としてワタシが先陣を切った。


「女将!今年はこの3人にやってもらうのは、どうですか?」


「私達も・・・もう体がね。動かなくなってきてるからね〜」


ワタシの問いに誰も答えることなく、

サイトウコンビが何かをワタシたちに任せようとしている。


「新人3人にできるかしら、しかもジャックは大学生」


「まあ、どうとでもなれでええんじゃないか?」


おじいちゃんの「どうとでもなれ」に女将は納得しているようだ。


「さてそれでは3人には・・・」


3人が同時につばを飲み込む。


「”屋台”を出してもらいます」


この地域では毎年春に、”温泉祭り”が行われている。

地域の人々は祭りを盛り上げるために、それぞれが考えて”屋台”を出している。

毎年、毎年行われているため、同じものを出してもいいのだが、

女将のプライドがそれを許さないみたいだ。

違うことをすることにこだわり、

毎年旅館スタッフは頭を抱えているとのことだ。

何だか学祭みたいで少しワクワクしてきたのはワタシだけでなく、

ケンさん、ジャックもそのような雰囲気が感じられる。

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