第7話 イヤな雰囲気
「は〜結局汗だくだ〜」
「あともう少し頑張ったら今日も終わりよ」
「いや〜これからが勝負だよ〜」
お昼の休憩を終えて戻ってきたサイトウコンビと浴室の掃除を行っている。浴室掃除は3人で一つ一つ行う。
「間に合いますかね」
「今までこんな問題なんて起きたことないからね。温泉に入れなかったら、私とAさんで漫才でもしてお客様を笑わせましょうよ」
「いや私は無理ですよ。タケちゃんとお願いします」
「冗談を言ってる場合じゃないですよ〜。修理が間に合わなかったことも考えて何か対策しないとです」
「そうね〜」
掃除を終えると同時に女将と業者の方が現れた。
「サイトウさん、タケ、申し訳ないですが、お客様のお出迎えをお願いします。あと温泉はまだ入れないことをお伝えてください」
「わかりました」
————-
時計は 16:00 を示している。
そろそろお客様がいらっしゃる時間だ。
受付周りの掃除と各部屋の最終チェックを行い、3人で受付で待機している。
「女将、戻ってきませんね。やっぱり今日は温泉は無理ですかね」
「温泉を楽しみにしているお客様は多いですし、この時期は常連さんもいらっしゃるからね。なんとかならないかね」
あまり良くない雰囲気だ。
何かワタシにできることはないだろうか。
「はいどうも〜。はい、練習するわよ。タケちゃん」
みんな同じ気持ちなのであろう。
サイトウおばちゃん(B)が雰囲気を変えようとしてくれている。
ガラガラ。玄関の扉が開く音が聞こえた。
「こんにちは〜。予約したアベです」
「いらっしゃいませ!お待ちしておりました。アベ様。本日はお越し頂き、誠にありがとうございます」
「タケちゃん、頼むわね」
「アベ様、こちらになります」
—————
「へ〜、やっぱりいいところですね。周辺の木々もいい感じです」
「ありがとうございます」
廊下の窓から見える景色を見て、会話をすることはよくある。
お客様との最初のコミュニケーションかもしれない。
「アベ様、こちらのお部屋になります。お食事は18時に広間にお越しください」
「ありがとうございます。あの〜すみません。温泉は食事前に入れますか?」
さっそくその質問が飛んできたことに少し驚き、戸惑ってしまったが、すぐに返答する。
「申し訳ございません。ただいま温泉の方が設備の不具合を起こしておりまして、お食事後には入れるよう準備しております」
「不具合か〜。わかりました。楽しみにしています」
「申し訳ございません」
お客様が部屋に入られるまで頭を下げていた。お客様の期待に答えたい。でもどうすれば良いのだろうか。
続々と来るお客様を案内し、温泉について伝える。今日のお客様はみなさん優しい方々であった。お客様によっては「お金返してください」と言われる方もいらっしゃる。
————-
「さて、夕食の準備をしましょう。2人とも」
お客様の案内を終えて、休憩室で再び集まった3人に会話はなかった。
サイトウおばちゃん(A)の優しい声によって、やっと動き出し、ワタシ達は調理室へ向かった。
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