第26話 アイデアを一晩寝かせてみて、いざ開戦


アイデアを出すのに頭を使い、体で浴室掃除を行う。

慣れてきた浴室掃除は頭を働かせずとも、体が覚えているものである。


「う〜ん・・・」


「毎年中々決まらないのよね〜。

そしてBさんが適当なことを言うのも毎年、恒例のことよ」


サイトウおばちゃん(A)と浴室の床にブラシを掛けながら、話し合っている。


「中々決まらずに本番が近くなって、

食べ物系で決めてしまうのがここ何年かのことよ」


「でも食べ物は、みーちゃんが”デリシャスおせんべい”とか出してるよね」


「そうなのよね〜。昨年の屋台は、食べ物が多かった覚えがあるわよ」


体を動かしても、アイデアは出そうにない。

どんどん・・・

どんどん・・・深い溝にハマっていくような気分だ。


「現地にでも行ってみたらどう???」


お祭りは、例の湯けむり通りで行われる。

現地からヒントを得るというおばちゃんの提案に、

「何かカッコいい」と思ったワタシはそれを採用し、

仕事を終えた21時くらいには、湯けむりを目指して歩いていた。


「何かないかな〜」


目に入るのは、いつもの光景。

湯けむりと知り合いのお店が連なる通りだ。

夜は人も少なく、聞こえる音はワタシの独り言と下駄の音だけだ。


「あ〜〜ダメだ!気分転換、気分転換っと」


ふと、現実逃避で近くの温泉に入りたい気分になり、

行きつけの温泉を目指すことにした。


「あっ・・・」


温泉の入り口の前に来て気づく。


「タオル忘れた・・・」


目的が現地調査のため、装備は何もない。

仕方がないと自分に言い聞かせ、

今日は旅館の温泉で我慢することに決めた。


「もうちょっと計画性もって動かないとな〜」


目の前の建物から出ている湯けむりを眺めながら、一人つぶやく。

前にもこのようなことがあったような、なかったような気がする。


「あっ・・・」


アイデアが湯けむりに揺られて降ってきた。


「うん。これだよ。これなら・・・」


急いで旅館に戻る。

戻っている途中に昨年の夏の行動を思い出す。


「やっぱり、前にもあったなこれ」


ワタシは湯けむりを見て、アイデアを出す変わった人間なのかもしれない。


「ふ〜、深呼吸、深呼吸っと」


思いつきの行動は上手く行く可能性もあるが、失敗する可能性もある。

昨年の夏は成功に終わったが、今度は失敗するかもしれない。

「ワタシ成長してるよ〜☆」と思いながら、

自身の部屋でノートをペンを取り出す。


「ん〜、これで、これはダメか、こうしたら良いかな・・・」


思いついたことをノートに書き出していく。

成長したワタシは、そのアイデアを一晩寝かせることにした。


-----次の日-----


起床。

ワタシは改めて、まとめたノートを見返す。

「これがいい」という気持ちには変化はなかった。


午前の仕事を終えた3人は昨日と同様に、休憩室に集まっていた。


「じゃあ続きやりますか。俺はやっぱり食べ物系が良いかなって思ってる。

昨日のラーメンじゃねぇけど、少し珍しいものを作りたいかな〜」


「デハ、今日もカイテイキマスね」


〈食べ物(珍しい)→ラーメン?〉がホワイトボードに書かれる。


「私も食べ物がいいですね。

シンプルにおにぎりとかでもイイとおモッタのですが・・・」


次に〈おにぎり〉がホワイトボードに書かれた。

二人の視線がワタシに向かっている。


「私は・・・」


持ってきたノートをチラッと見て、一呼吸。

そして・・・口を開いた。


「タオルを出したいです!!!」


方向性が食べ物系となっている中での、

いきなりのワタシの提案に

二人は驚いた表情をしている。


さてここから、あることが始まる予感がした。

3人とも結局自分の好きなものからアイデアを出している。


これは恐らくだが、

”自分のアイデアが正しい”という言い合いの始まりだ。

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